平成11年(ワ)第13320号事件
                         原告     河村 昌弘
                         被告     江戸川区
 
            第9準備書面
 
  平成13年5月21日
                      上記 原告     河村 昌弘
東京地方裁判所民事第6部合議係 御中
 
第1 被告の地域保健法違反および背信性
被告は前回の弁論で乙第32号証から乙第54号証を提出しているが、これは名古屋地裁平成6年(ワ)第4185号事件で被告の日本たばこ産業株株式会社が提出したものである。さらに、翻訳もすべて、日本たばこ産業が作成したものである。加えて、被告の準備書面(4)の内容は、上記事件において日本たばこ産業株式会社が提出した、準備書面(7)に酷似している。
そして、上記事件の原告に本事件原告は確認してみたが、上記事件の記録の謄写物を江戸川区に渡したことはないという。さらに、訴訟記録を確認したところでは、上記事件の原告、名古屋市在住の日本たばこ産業株会社の代理人以外は訴訟記録を謄写していない。 
とすれば、本事件被告は、上記証拠を日本たばこ産業株式会社経由で入手 したしか考えられない。
さらに、準備書面も日本たばこ産業が作成したか、または、助力をあたえたとしか考えられない。 
以上よりすれば、被告は日本たばこ産業とともに、本件訴訟の対策をしているとしか考えようがない。
しかしここで考えてみれば、被告は「公共医療事業の向上及び増進」「疾病の予防」及び「地域住民の健康の保持および増進に関し、」「指導」しなければならない責務(地域保健法第6条、5条)を有する公共団体である。そして、上部団体であった東京都がたばこの有害性を認め、対策をしているなかで、一民間企業の主張に荷担し、公の利益を省みぬもので、その違法性は大きなものである。
すでに、肺癌死亡者の人数が目に見える形で増加しWHOがたばこ規制条約を策定しつつある現在においても、たばこ会社の利益を擁護しているのである。
まさしく、被告代表者区長は、甲第31号証において「たばこを買ってもらわなくては困」ると発言しているのである。
かような被告の姿勢からすれば、平成7年当時の被告のたばこに対する誤った対応が窺い知れるであろう。
しかも、被告は職員として医師を雇用しており、医学の知識を有しているのである。その背信性は甚だしいといえる。
原告は第8準備書面で裁判所に釈明を求めている(前回陳述は留保された。)が、それは、公共機関である被告がなぜ、公共機関の公的見解でなく、一民間企業の見解に与しているのか、なぜ、たばこ会社の利益を擁護するのかを明らかにしたいと考えるからである。 
つまり、原告は、被告がETSが有害でないことを確信していたから、たばこ対策をしなかったのではなく、たばこ産業の利益の擁護(おそらく、人の健康より金目的)のために、喫煙対策をしなかったのが、実際のところであると考え、それを立証する必要があると考えるからである。
 
第二 被告の準備書面(4)第1に関する反論
1 被告の引用する学者の見解について
(1)総論 
原告は第7準備書面 六 において、被告の主張が甲第44号証においてWHOが主張しているたばこ会社による偽の情報に依拠していることを主張したが、被告の準備書面(4)の第一の主張はまさしくこの主張を裏付けるものであり、信用するに値しないものである。また、いくら民事訴訟は形式的真実主義であるとはいえ、仮にも公共機関である被告が、公的見解でなく、私的かつ医学界で特異な見解に依拠するのか理解しがたい。以下説明する。
(2)春日斉氏の見解の問題点
 被告の主な反論は春日斉氏の見解に基づいている。春日氏の見解は医学界で
支持を得ている見解ではなく、公共機関たる被告がなぜこのような異説に与す
るのか原告には残念ながら理解できない。
WHOは甲第44号証において
「受動喫煙の害がとるに足りないと主張する”専門家グループ”の育成まで
行ってきたのです。」
「タバコ産業は、何百万ドルの金をつぎ込んで受動喫煙問題についてのウソ
の情報を流しています。」
「まともな科学研究成績を非難するだけでなく、受動喫煙の健康被害を小さ
く見せるインチキ研究プロジェクトを推進してきました。」
と主張している。
そして、春日氏の見解はまさしく、このようなインチキ研究であり、公共機関たる被告が依拠すべきではないのである。
(3)春日氏の見解の自己矛盾
a 甲第47号証の1,2は京都地裁における春日斉氏の証人尋問の調書である。甲第47号証の1によれば、春日氏の見解はいかにももっともらしく見える。
   しかし、甲第47号証の2によれば、その主張のおかしさが明らかになる。
まず問題なのは、甲第47号証の2 5ページ以下にあるように、春日氏は日本たばこ産業株式会社に研究の委嘱をうけ報酬を得ているものであると言うことである(甲第47号証の1 49ページ参照)。
さらに問題なのは、同ページにあるように春日氏は、日本たばこ産業株式会社が87パーセントの資金を提供している喫煙科学研究剤財団の評議員もしているということである。(甲第47号証の2 8ページ以下参照。)
さらにまた問題なのは,春日氏がもともと受動喫煙の危険性を問題にしていた人物であると言うことである(甲第47号証の2 10ページ以下参照)。
そして、甲第47号証の2 14ページにろうように春日氏は、平山博士が友人であるから、受動喫煙の有害性を主張する見解に与したというのである。
学問の純粋性を捨てて情により見解を左右してしまうものが、たばこ産業から十分な報酬を得てたばこ産業に有利な見解を主張することは十分にありうることである。
この点で、春日氏の研究の信頼性は低く、WHOのいうたばこ産業が育成する受動喫煙の害がとるに足りないと主張する専門家グループの一員であるといえるのである。
b また、甲第47号証の2 27ページにおいて春日氏は、オッズ比が3以上なければ有意な論文とはいえないとしながら、たばこが疾病を予防するという春日氏の見解の論証においては、オッズ比を3以下でもかまわないとしている。(甲第47号証の2 38ページから40ページ)このように、自分に都合の悪い研究に対しては厳しい評価をしながら、自己に有利な論文、自己の論文については緩い評価をしているので、学問的研究としてはお話にならないものである。
c  さらにまた、甲第47号証の2 28ページにあるように春日氏の論文の引用には誤りがあるのである。
d そのうえ、同40ページ以下において、春日氏の「ETSの濃度が低ければ安全である」という見解の根拠が、要するに疫学調査において、調査結果の中で春日氏が有意と認めるというものが少なかったという個人的意見のみでしかないことが明らかになっている。要するに、量反応に関する春日氏の見解を支えるものは一言で言って、自分はそう思わないということであり、何ら学術的裏付けのない見解なのである。
そしてまさしく、同45ページにおいて春日氏は、「こういうふうになれば、は発癌するにいたらないだろう」という「だろう」という言い方をしている。
さらに、同47ページにおいては春日氏は、ETSの濃度に関する安全値は計算できないとしている。ならばなぜ、低濃度ならば安全なのであろうか。
このように、受動喫煙に関しては濃度が低ければ安全と言うことは、なんら科学的に証明できていないのである。
そして、統計研究は、ETS暴露が低いものも含んでの研究がなされたうえで、危険性があることを明らかにしている。これは要するに、現段階では、ETSを低濃度吸い込んでも危険性があるという調査研究しかないということである。低濃度で危険という証拠はあっても、安全という証拠は未だないということである。仮に春日氏の主張する低濃度ならば安全という見解が本当は正しいとしても、現段階ではなんら証拠がないのである。とすれば、科学の立場として、その見解をを採用することはできないはずである。
たとえば、こういうことと一緒である。現在アインシュタインの相対性理論というのが正しいとされているが、これについては確かに完全な証明はできない。一部の教養のない非専門家が「相対性理論は間違っていた」などという書籍を出版したりしているが、確かに光のスピードで旅行することなど現在できないから、光速でのスターボウ、浦島効果などの現象は確かめようがない。しかし、近日点の実験や、原子時計の遅れ、粒子加速器での検出データなどはすべてこの理論の正しさを裏付けており、いまだ否定する実験結果はないのである。このような場合、やはり、理論を正しいと仮定せざるをえないのであって、現在まともな国の研究者で相対性理論を否定するのはいない。
科学では、多くの証拠があるなかで、否定する証拠がないならば、その理論を正しいと仮定するのが正しい態度である。
そして、ETSに関してはWHOが、安全値はないとしている(甲第44号証)。
これに対し、春日氏は、低濃度でも受動喫煙は危険であるという多くの証拠がある理論を何の反証なく正しくないかもしれないとしているのであり、その誤謬は明白である。
e 次に、同55ページにあるように、春日氏は自分の見解を裏付けるためにEPA報告を意図的に一部を隠して引用している。
すなわち、本来、「全体として、平山研究は、ETSが肺がんリスクを増加させると言う仮説を、決定的とまではいえないが、支持する根拠を提供してる。」とあるべきところを「全体として、平山研究は、ETSが肺がんリスクを増加させると言う仮説を、決定的とまではいえない」とだけ引用している。 
また、67ページでは、論文の引用年を改変して引用し、EPAの報告の不当性の根拠としているとが明らかにされている。
もうこれ以上詳しくは指摘しないが、67ページ以降において、春日氏が自分の見解を根拠づけるために引用している論文について、その趣旨が逆になるように引用しているとの指摘がなされ、春日氏自身もそれを認めている(甲第47号証の2 71ページなど)。
さらに次に、88ページ以下においては、春日氏の1992年の論文が1986年までの古いデータに基づいていること、そしてその見解を今も何の根拠もなく維持していることが明らかにされている。
加えて、春日氏自身が93ページにおいて自らがスモーカーであることを認めるに至っている。原告は既に中毒性に関し、文書提出命令を申し立てているが、このように、喫煙の中毒性は研究者の良心をも歪めてしまうものなのである
f  このように、春日氏の見解は客観的根拠がなく、矛盾に満ちたものであり、最終的に春日氏自身が102ページ以下において、医学的根拠はなくとも分煙をすべきであると証言しているほどなのである。
被告は受動喫煙は危険性がないので禁煙・分煙は不要であるとの主張の立証のため、春日氏の見解を多数引用しているが、春日氏自身は、受動喫煙の有害性に関わりなく、分煙は行うべだと主張している。被告は少なくとも分煙を行うべきだったのである。
 
(4)Gio Batta Gori氏の問題点
被告は春日氏に続いて、Gori(ゴリ)氏の見解を多数引用している。
しかし、Gori氏もまた、WHOの言う、たばこ産業が育成している受動喫煙の害がとるに足りないと主張する専門家グループの一員である。その見解は到底信用できない。
甲第48号所の1、2、3を見れば明らかなように、ゴリ氏は、たばこ会社から金をもらい、しかも、たばこ会社の顧問弁護士の指示に従い、その見解を策した人物なのである。
しかも、彼が今顧問をしているのは、ブラウン・アンド・ウイルアムソン社である(甲第49号証 「Gio Batta Gori, who represents Brawn & willia-mson Tobacco Corp.」《ブラウンアンドウイリアムソンたばこ会社を代表するギオ・バッタ・ゴリは》とある。」)。
これは、原告が文書提出命令を申し立てている、証言ビデオの証言者ワイガント博士が副社長をしていたたばこ会社である。そして、この会社が自社に都合の悪いことを隠蔽するためにいかなることをしたかは、甲第45号証(「インサイダー」ビデオ)に詳しい。しかも、この会社は、フロリダ州のたばこ訴訟で敗訴評決を受けている。
このようなことからすれば、Gori氏の見解は、詳細に検討する必要もなく信用できないものである。
 
2 被告のEPA報告に対する主張への反論
   被告は、第15において、ノースカロライナの決定を引用し、EPA報告が無効なものであると主張している
   しかし、甲第48号証の1、2、3で明らかなように、この決定の基礎とされたのが、たばこ会社によって巧妙にでっっちあげられた証拠によるものであること、そして、米国民事訴訟は日本より形式的真実主義が徹底していることまた、甲第50号証のように、ノースカロライナはたばこ農家が多く(甲第50号証には、North Carolina produces more tobacco and sweetpotatoes than any other state「ノースカロライナはどの州よりも多く、たばことさつまいもを産する」とある。)、たばこ産業にとって有利な地域であること、また米国の裁判官は政治的任用がなされること、この決定は連邦最高裁のものでなく、まだ確定していないこと、を考えると、この決定を過大視するのは適切でない。
もし、仮に、この決定の通りであるとしても、乙第54号証の原典をよく読めばわかるように、この決定はEPA報告がランダム・リサーチ・アクトという手続き法に違反していることを確定するものであって、EPA報告の内容が誤りであることをレーショ・デシデンダイとして確定するものではないのである。
そして、EPA報告は、甲第47号証の1、2、3にあるように、科学者の間において内容的に誤りはないとされている。
とすれば、被告が主張しているのは、次のようなことになる。
すなわち、
被告としてはオスティーン判事の決定がでる1998年より前に既に、EPA報告に手続き違反があるのがわかっていた。
EPA報告は内容は正確で受動喫煙の危険性があることはわかっているが、EPA報告には手続き違反があるので無効であり、その内容は無視して良い。
たとえ、公衆医学の権威ある人々が、EPA報告の内容をを支持していても、EPA報告に手続き法違反があり、いづれは無効とされるという確信が江戸川区には、あったのであり、今もあるのであるから、東京都等がが何と言おうと、ETSが重大な危険物であると考えない。
ということになる。
しかし、公共機関として公衆衛生を担う立場のものが、公共機関の見解でなく、このような当時においても異説である立場を採用する必要性はあったのであろうか。
 
3 その他の証拠について
以上に述べたことからわかるように、被告のよって立つ見解を支える証拠は、たばこ会社のバイアスのかかったものである。また、春日氏が行っているように、まじめな研究結果の一部のみを意図的に引用しているものにすぎない。
さらに述べてみると、乙第33号証は、、平成元年度の古い時代の資料を意図的に引用するものであり、乙36号証は、室内にはたばこ以外の汚染物質が存在するといういわば当然のことを述べたにすぎないもので、ETSの危険性を否定するものではないし、乙第37号証などは、そもそも化学物質の評価法を正すため書かれたものであり、ETSの危険性をなんら否定するものではないのである。
乙第38号証、乙第39号証にの著者グリーンに至ってみれば、乙第39号証に記載してあるように、たばこ会社R.J.レイノルズに雇われている者である。ジオ氏と同じ、御用学者であり、信用できないものである。また、この書面も学術論文として審査を経たものではない。
乙第40号証などは、まさしく甲第47号証の1、2、3で指摘されているジオ氏やマンテル氏の問題のある投書である。
また、被告の準備書面(4)第1では、例えば、2ページの10行目や、7ページの7行目で、「報告もある。」などと、御用学者の見解を引用しているところなど、まさしく、甲第48号証の1,2,3にある、
「グランツ博士はこう言う。『基本的に手段はこうです。彼らはまず、このような文書を書く人間を雇い、次にそれをあたかも独立の、公平無私な科学者の著作物であるかのように引用するのです。』『そして、彼らはそれを偽の文献をでっちあげるために使い、オスティーン判事のような人々にEPAがインチキであるという証拠として見せるのです。』」
のくだりそのままである。そして、記述は「証明されている」となっていことに注意すべきである。
さらに、9ページでは、「WHOのETS暴露と肺がんとの間には統計的に有意な関係がないとの研究結果がえられている。」という部分のみを引用し、その後関係があるという研究結果が得られたという部分を意図的に引用しないなどの手法がとられている。 
これらの医学問題については、追って医師の意見書が提出される。また、原告は既に、専門的知識を有する医師を証人として申請している。問題点の詳しい分析はそれに譲り、援用することとするが、一言で言って、この被告の見解は公共機関がとるとは信じられないものであるということである。
 
第3 被告の主張第二、第三について 
1 被告の主張に対する反論(被告の快適職場指針違反、判例違反など)
 (1)被告は、準備書面(4)第2 第3 1、2、3において、要するに、他の自治体などが当時喫煙対策をしていなかった、受忍限度であると主張しているのだと思われる。
しかし、原告は、そもそも被告のこのような主張は、言うなればスピード違反をして捕まったものが、前の車も飛ばしていたから悪くないと主張するものであり、採用すべきでないと、第三準備書面 二 などを含め何度も、反論している。しかも、原告に損害が発生しているにも関わらず、受忍限度なのであろうか。
繰り返しになるが、仮に被告の主張のとおりとしても、平成7年当時、喫煙対策をしていたのが過半数をかるく越えるのであったのであり、平成6年1月の調査では、都民7割以上が分煙を望んでいたのであるから、被告の喫煙対策は遅れていたとせざるをえないのである。
(2)さらに、乙第15号証の191ページ以下に記載されている、労働省平成4年7月1日の告示の「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」によると、(1)空気環境 において「必要に応じ作業場内における喫煙場所を指定する等の対策を講ずること。」と規定されている(同192ページ)。
また、2 労働者の意見の反映においては、「その職場で働く労働者の意見ができるだけ反映されるよう必要な措置を講ずること」と規定されている。
被告の対応はこの規定に違反している遅れたものであり、他の官公庁を持ち出して言い訳をすることは許されないはずである。
(3)加えて、平成13年5月11日のハンセン病に関する熊本地裁の判決は、「隔離の必要性の判断は、その時々の最新の医学的知見に基づき、隔離のもたらす人権の制限の重大性に配慮して十分に慎重になされるべきである。」としている。
このように、最近の判例においても、基本的人権に関わる事項については、最新の医学的知見に基づき判断がされるべきとしているのであり、原告が第三準備書面の2以下で引用している安全配慮義務に関する判例の言い回しと何ら異なるところはない。
また、上記判例は、立法の不作為の違法性を認めており、いわんや行政の不作為をやである。
ETSによって、脅かされるのは生命・身体であり、人権の冠たるものである。このような人権の脅かされる場合は、最新の医学的知見に基づいて措置がなされるべきなのである。
平成7年当時、ETSの危険性は医学界の常識であったのであり、すでに最新うんぬんの話ではなかったのである。被告が他の官公庁・民間企業うんぬんという主張を持ち出すこと自体が失当である。
(4)さらにまた、第3 2、3などにおいて被告は、あたかも進んだ喫煙対策を行っていたこのように、主張するが、このような主張が詳しく論ずるまでもなくおかしいのは、甲第28号証(区議会議員証言書)を見るだけで明らかであろう。この書面では、被告のいう分煙が、言葉だけで内実のないものであることが示されている。また、甲第33号証の1、53号証の1,2の写真は何なのであろうか。このような状態で、かつ他の自治体に比べ狭隘な施設である江戸川区の庁舎を、はるかにまともであった東京都や他区の庁舎と比較すること自体が論外な話である。
さらに立証するため、原告は田中健証人を申請しているし、今回、北棟で原
告の対面にいた職員の、北棟の環境が劣悪であり、それに対し、被告がなにも
しなかったことなどの状況を示す、陳述書を提出する(甲第51号証、52号証)。
また、甲第 53号証の1、2は平成8年度に東京都と23区が出資するMXテレビジョンが撮影したものであるが、この時においても、本庁舎、北棟でこのように平然と喫煙が行われていたのである。マスコミが取材にきても平然と喫煙をしているように、被告の喫煙対策はまともに行われていなかったのである。
さらに、被告準備書面(4) 14ページには、「喫煙コーナーを設け、空気清浄機、換気扇を設置しており」とある。なんら区画もしないで、換気扇を窓につけただけで、喫煙コーナーとし、ETSなどの微粒子に効果のない空気清浄機をあたかも立派な空気清浄機がついていたかのように記載しているのである。
そして、平成13年の現在においても、都市開発部では勤務中に平然と喫煙がなされているのであり、その証拠を追って提出する。
(5)さらに加えて、被告はしつこくガイドラインうんぬんの同じ主張を繰り返すが、ガイドラインに則った測定をそもそもしていなかったのにやっていたと主張していること、それゆえ測定方法がそもそもおかしいことを原告は既に主張しているうえ、原告は地方自治体の状況についても証人を申請している。
そして、この点に関する主張も甲第1号証、甲第21号証の1(杉並区保健所総務課長の分煙に関する記述)、などと異なる、被告の独自の見解であり、甲第1号証も明示している、たばこ会社のバイアスのかかったものと考えられる。
 
2 被告も認める空気環境測定の問題点
   そして、ここからが「特に」重要であるが、被告は準備書面(4)の、3(2)において、「現段階ではETS暴露量が正確に把握できる方法が確立されているような状況ではない。」ということを認めている。とすればまさしく、ガイドラインの空気測定うんぬんと、ETSの状況との関連性はないということになり、被告の言うビル管法、事務所衛生基準規則など(そもそも被告は労働省などのガイドラインの測定は行っていない。)の基準を満たしていたからETS暴露はなかったいう主張はそもそも誤りと言うことになる。ただ、原告は、計算によっても、労働省などのガイドラインすら満たしていなかったような劣悪な状況であり、ETS暴露は相当のものであったと主張しているのである。
 
3 因果関係について
被告は4で因果関係について論及している。被告がETSに危険性はないと言うのであるから、ある意味でこの種の主張がなされるのは当然であるが、ETSが呼吸器系の疾患を起こすうえ、既存の疾患を悪化させるのは既に常識である。
被告は、(1)で、急性咽頭炎うんぬんしているが、被告自身も急性咽頭炎が「物理化学的刺激」で生じるとしているのである。原告は、まさしく、ETSによって生じたと主張しているのである。
また被告はヘルニアにおいて、原告の勤務期間が短かったとする。しかし、152日というのは長い期間である。1日だけおかしなことをしても、通常人であれば、具合が悪くなるはずである。翌日は具合の悪さが残るはずである。それが、毎日、8時間も、正味とはいえ5ヶ月も続いたのである。途中、1日くらい休んだとして、人間の疲労や疼痛はそう簡単には消えない。期間にすれば、9ヶ月も続いたのである。これは、疾患を生じるには十分なものである。
また、被告は因果関係を示すものはないとするが、甲第7号証、8号証があるうえ、原告は証人を、腰痛を有するものを含め申請している。
また、因果関係に関する原告の見解を今後、敷衍して主張する。
 
第4 写真(甲第33号証の1および2並びに同34号証)について
被告は総務部長、政策文化室長の灰皿は来客用と主張しているが、この点ですでに、江戸川区が喫煙対策をしていないことを自白するものである。
東京都や他区のように、来客を含めて分煙・禁煙をしているのではないからであり、対応が異なるからである。この東京地裁も来客も含めて禁煙であり、開廷中の喫煙も許されていない。裁判所におかれても、いまだに言い逃れとしても、この程度の主張しかしない被告の後進性をご理解いただきたい。
また、来客用なら応接テーブルに灰皿を通常置くはずであるし、個人用に灰皿を机上には置かないはずである。この点で、職員が自席で喫煙をしなかったというのは、経験則に反するものである。そのうえ、甲第28号証の記述からしてもおかしなことである。この点は、田中証人から明らかにされるであろう。
 
第5 被告準備書面(4)別紙について
以下反論する。
1 縮尺は正確でない。机などの大きさが小さく、実際の室内より別紙は広い。
2 原告の座席の上方の換気扇の位置が異なっている。(甲第54号証の1、 5参照)
3 送風口、排気口の大きさが異なるうえ、機能が異なっていると考えられ る。送風口はもっと小さく、単なる風を送るというよりは、単なる吸気口のようである(甲第54号証の2)。 排気口は、十分な機能を有しないものである(甲第54号証の3)。
4 換気扇も図から想像できるような大きなものでなく、能力的には小さい ものである(甲第54号証の1)。 
5 空気清浄機も原告がこれまで主張・立証したように、たばこのような微粒子・ガスに対して効果のあるものではないタイプのものである(甲第54号証の4)
なお、甲第54号証の写真は、広角レンズを使って撮影されているので、遠近感が誇張されてしまっていることに注意して頂きたい。実際の室内は狭い。
 
第6 空気清浄機について 
甲第55号証の1は、原告が机の上に置いていた空気清浄機である。写真に写っている机は、原告が都市開発部で使用していた机と同型のものであり、空気清浄機がかなり大きく目立つものであることがわかるであろう。
また、甲第55号証の2は空気清浄機のカタログであり、これによれば、フィルター交換の目安は、6ヶ月に1回とされている。検甲第1〜3号証のような状態にわずか2週間でなってしまったという事実から、都市開発部のETS環境の悪さが理解できるであろう。
 
第7 乙第56号証について
乙第56号証を作成した湯川係長は、たばこを吸わないと記載しているが、かっては喫煙者である。
そして、甲第2号証において、被告代表者区長が「私も実はかってヘビースモーカーでございました。途中からやめたわけでございますけれどもそれだけにたばこをのむ方の心情がよくわかるんです。これはやめろといっても、なかなかやめられない。」と言っているように、たばこには恐るべき中毒性があるのであり、一度その中毒性を体験したものは、たばこに対して好意を抱くのであり、ETSを好むようになってしまうのである。したがって、そのような者は、ETSに寛容になってしまっているのである。
このことからすれば、湯川係長が、職場の喫煙で迷惑をうけているという意識はあまりありませんと述べるのは当然である。そして、湯川係長が、喫煙に寛容になってしまっているのは、再開発課の職員17名のうちほぼ半数の8名が喫煙者であるにも関わらず、「特別に喫煙者が多い職場というわけでもなく」と述べているところにも顕れている。
また、このように、たばこの煙で迷惑を受けている覚えもなくという記述があること自体、被告のたばこに対する意識が低かったことの現れである。被告はこれまで、先進的な分煙対策を行ってきたかのように主張してきているが、たばこに対して上記のような「迷惑」もなかったという見解からすれば、換気扇をつけるだけというお粗末な対策になってしまった訳がわかるであろう。
なお、区長は、区長の前に幹部職員が集まる庁議において、幹部職員に対して、たばこを吸わせなかったという。
原告は江戸川区の職員研修で、「区長の前では禁煙です。あのT職員課長も区長の前ではたばこを吸えません。」と教えてもらった。区長は、職場では吸ってもいいとして、自分の前では吸わせないという矛盾した対応をそもそもしていたのである。要するに、自分以外の職員の健康などどうでも良かったのであり、それよりもたばこ会社の利益が大事であったのであろう。 
また、原告が不自然な姿勢をとっていなかったと記述しているが、これは甲第51号証、52号証の記載と異なる。そして、机の上に大きな空気清浄機をおいて、マスクをして勤務しているなどと言うのは、誰が見ても不自然であるのに(甲第52号証では「はじめてこれを見た人は、私に『どうしたの。』などと聞いて」きたとある。)、ほったらかにしていた責任者の記述であるから、このような記述がなされても不思議はない。
要するに原告の健康よりたばこ会社の利益を考える被告側の責任者の発言であり、信用性は乏しいものである。
乙第56号証では、「分煙がよく守られていた」としているが、これも甲第28号証、甲第52号証の記述と異なるうえ、それならなぜ、甲第33号証の1,2、第53号証の1,2のような写真が撮影できるのであろうか。この点も、やはりたばこ会社の利益を擁する被告側責任者の信用性の乏しい記述である。
また、週1回の割合で出張していたわけではないし、時間も長くて数時間程度であった。
 
第8 検証の申立て
第5で室内の状況について述べましたが、室内の広さ、換気設備の状況は、口頭、写真では、わかりにくいところもあろうかと思われます。
   したがいまして、検証の申立を今回致しますので、裁判所としてもご検討をお願いたします。
なお、仮に裁判所が検証にいらっしゃいますと、その時は、自席の灰皿も撤去され、普段のように室内で喫煙する職員はいなくなってしまうであろう思われます。検証をされる場合は、室内の広さ、換気設備などの位置関係を主に検証頂きたいと上申いたします。
 
第9 甲第56号証について
被告に対して、平成10年に、公衆衛生の専門家から、甲第56号証の1のような要望が来ていた。被告の喫煙対策の後進性を示す証拠として提出する。
 
第10 陳述書について
前回の弁論で裁判所より、本人尋問を申請されたい旨、釈明がありました。
原告としましては、第三者の陳述書を用意し、また証人も申請しているのでその必要はないと考えておりました。
しかし、裁判長のおっしゃったことを自分なりに咀嚼してみますれば、おそらく、裁判所には、つかみきれないところがあられるのであろうと拝察いたしました。
すなわち、原告、被告にしますれば、当事者でありますので、何が起こり、何が問題となっているのかが十分に把握できるわけでありますが、公平な第三者として、両者の主張を聞いておられる裁判所としては、事件の具体的イメージをつかみにくいということであろうかとおもわれます。
すなわち、訴訟資料と証拠資料との峻別と言うこともあり、原告が提出している証拠などが事件の中でどういう位置づけなのかわかるように整理してほしいというような趣旨もあろうかと思われます。
しかし、被告からは、ETSに関する新しい主張が出され、しかもたばこ会社にしか手に入らない資料が提出されている現段階では、訴訟の動的発展がありうることを考えますと、陳述書の作成、尋問事項の作成は困難であります。
このような場合、甲第57号証にもありますように、争点整理のための陳述書と最終段階の陳述書を分けて提出させているとのことですので、原告は、訴状記載の「紛争の経緯」の部分を分離のうえ若干修正し、事案解明型の陳述書として提出したいと思います。
 
第11 訴訟手続きに関する上申
前回の弁論におかれましては、高橋裁判長より、原告が1週間前に提出した書面につきまして「原告から本日、書面が提出されましたが」との仰せがありました。
甲第58号証によりますれば、「記録を読まないのは、全く言語道断」とありますし、これまで梶村裁判長や、大寄裁判官が、記録のすみすみまで把握していらっしゃったことが弁論でわかり、さすが優秀とされる裁判官であると本当に驚嘆したこともあります。
しかし、数多くの事件を同時に抱え、それぞれに登場人物がいろいろあり、しかも、当然、皆こじれた紛争であることからしますれば、いくら日本で最も優秀な人達とされている裁判官といえども、難しい面があろうことは国民として十分理解できることであります。専門的書証が膨大に提出され、原告ですら、自らの主張についてやはり以前の書面をひっくりかえしながら書かざるをえないわけで、こういうものを数多くこなす裁判官はやはり優秀な方達だとやはり敬服するわけであります。
原告はある裁判官が、「家裁の人」の桑田判事は手を記録に当てるだけで中身がたちどころにわかるか、あるいは一睡もしないで生きていられる人なのだろうと書かれている投書を読んだことがあります。
と申しましても、どの事件でもそうでしょうが、裁判所に来る当事者にとってはやむにやまれぬ問題です。
手控えなるメモに誤りがあり、そのまま、判断されたなどということでは浮かばれません。
拙速に傾かれず、十分に把握しかねていらっしゃる部分等があられましたら、遠慮なく、原告に確認されるよう上申致します。
以上


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