平成13年(行サ)第42号事件
                     上告人    河村昌弘
                     被上告人    特別区人事委員会
 
         上 告 理 由 書
 
  平成13年5月1日
                  上記 上告人    河村昌弘
最高裁判所 御中
 
 
1 理由不備(民事訴訟法第312条第2項6号)
 以下述べるように、原審には理由の不備がある。
(1)そもそも本件においては、判定のETSの重大な危険性は判定の違法性の判断に直接必要な要件事実と考えられる。なぜなら、ETSが重大な危険物であるならば、放置しておくと、原告の生命・身体に対する危険が発生し、被告の裁量は縮小すると解せざるえないからである。
  しかるに、原審は、原告がETSの重大な危険性につき具体的に以下のように、
    1 ETSは十万人うち一万数千人の命を奪う
    2 ETSは最悪の室内空気汚染因子である
    3 現在使われているETSの物理的生物学的指標は適切である
    4 非喫煙者は職場で健康被害をもたらし得るレベルのETS暴露をこう     むっている
    5 非喫煙者のETS暴露状態の評価は疫学的手法でじゅうぶん可能であ     る。
    6 ETSの健康被害に関する科学的コンセンサスは得られている。
    7 喫煙者の対するETS暴露を完全に防止できない換気強化の措置はE
     TSの規制策としてまったくふじゅうぶんであり、完全禁煙または別系     統の換気設備を備えた区画による完全分煙が必要である。
 と主張・立証しているのに対し、何らの判断もしていない。ただ、17ページな
 どにおいて、「平井福祉センターにおいて非喫煙者への配慮がされているかどう
 かは、同施設の目的、同施設の各部分の用途、利用者への区分等を考慮して総合
 的に判断されるべき」としたり、19ページにおいて判定の文言を引用し、「喫
 煙が喫煙者のみならず非喫煙者の健康に悪影響を及ぼすとの科学的知見が存する
 一方で、たばこが古くからの嗜好品で、喫煙の精神、心理面における効用を指摘
 する意見もある(中略)右の判断基準は相当として是認できる。」という記述が
 あるのみである。
  このように、ETSの重大な危険性が裁量違反があるかないかを左右する争点
 であるにもかかわらず、肝心の点につき原審は判示していないのである。
  原審19ページのように、効用を指摘する意見が存在したとしても、それが科
 学的に正しいというわけではない。なぜなら、覚醒剤などの麻薬でさえ精神・心
 理面における効用はあるという意見はあるのである。意見の有無ではなく、物質
 の危険性とそれに対する評価をしなくてはならないはずである。そして、危険な
 ものであれば、被告の裁量は縮小するのは当然である。
  この点について、原審は判示することを避けているため、肝心の点につき理由
 がないことになる。そして、理由がないことにより、裁量についての判断が恣意
 的になっているといわざるをえない。これは、結論に影響を及ぼす違法である。
(2)原判決は23ページにおいて「老人娯楽室を禁煙にしないことが労働省作成の前記ガイドラインに反するとすべき事情も認められない。」とし、24ページににおいて「同所を禁煙としなくても本件ガイドラインに反するとまでいえない」としている。
しかし、仮に禁煙としないことがガイドラインに反しないとしても、原告が控訴審第二準備書面の第二 二で主張しているように分煙としないことはガイドラインに反するのはずである。
原判決はこの点についてもなんら判示していない。
 
2 理由齟齬(民事訴訟法第2項6号)
  原審は、23ページにおいて、「老人娯楽室について禁煙の措置をとらないこ
 とは、分煙化ガイドラインの趣旨にはやや沿わない面があるといわざるを得ない
 が、右ガイドラインに反するとまではいうことができない。」としているが、こ
 の点には理由齟齬がある。
  なせなら、老人娯楽室は東京都分煙化ガイドライン(以下「ガイドライン」と
 する。)の娯楽施設に該当するのであり、ガイドラインによれば娯楽施設の「客  席」ば禁煙、「休憩室」は少なくとも「喫煙場所」を設置することとされている
 からである。
  ガイドラインの記述よりすれば、ガイドラインに適合するか否かは文言上一義
 的に明確に判断できる。そして、原審は21ページにおいて老人娯楽室に換気扇
 はあれども、喫煙場所が設置されているとはしていないのである。以上よりすれ
 ば、老人娯楽室がガイドラインに趣旨に沿わず、ガイドラインに反しているのは
 明確である。
  原審は、趣旨には沿わないが、反していないとしているが、これは言辞を弄す
 るににすぎず、論理矛盾であり、理由に齟齬があることになる。
  また、原審24ページ 6 もまた同様である。
 
3 憲法13条、25条違反
 以下述べるように原判決は上記条項に違反するものである。
(1)嫌煙権と喫煙の自由
  日本国憲法13条では、すべての人権規定を包括する原則規範としての意味を
 もつ「幸福追求権」を規定している。そして、幸福追求権は、具体的権利として
 人格的生存に必要不可欠な権利と解するのが一般である。
  眼前に迫る危険物の受領を強制されない自由、すなわち、危険物を拒む権利は、
 それが生命維持のために不可欠なものであり、いうまでもなく、人格的生存に必
 要不可欠である。よって、幸福追求権の一内容をなすものである。
  そして、ETSが人の生命に高度の危険性を与える危険物であることは今日、
 たばこ製造会社自身が認めるほどであり、そもそも受動喫煙の危険性について、
 証明を要するまでもないほど明らかなものである。とすれば、ETSを吸わされ
 ない自由、「嫌煙権」は、危険物を拒む権利として、幸福追求権の一内容として
 認めらてしかるべきである。
  また、25条の「健康で文化的な権利を営む権利」より、生命への危険を与え
 るようなものを拒む権利(自由権)が当然導き出される。とすれば、「嫌煙権」
 は、25条からも認められるものである。
  このように「嫌煙権」は憲法上の権利として位置付けられるものである。
  特に、本件では、被告が公共団体であり、、憲法が直接適用されることに問題
 はない。すなわち、本件においては、公共団体よりETS(環境タバコ煙)を吸
 わされない権利が侵害されているということになる。
  また、嫌煙権に対するものとして主張される喫煙の自由は、人格的生存に必要
 不可欠とはいえないから、人権とまではいえない。よって、喫煙の自由が尊重さ
 れるとしてもさそれは人権としてではなく、比例原則(権利・自由の規制は社会
 公共の障害を除去するために必要最小限度にとどまらなければならないとする原
 則)との関わりにおいてである。
  とすれば、喫煙の自由が、嫌煙権との関わりで後退をするのもやむをえないと
 言うべきである。
(2)原判決の誤りその1
  原判決は、17ページにおいて、「平井福祉センターにおいて非喫煙者への配慮
 がされているかどうかは、同施設の目的、同施設の各部分の用途、利用者への区
 分等を考慮して総合的に判断されるべきところ、」としている。
  また、22ページにおいて、「施設の各部分について禁煙の措置をとるかどう
 かは、右ガイドライン等を尊重しながら、同施設の目的、同施設の各部分の用途、
 利用者の区分を総合的に考慮しながら、総合的に判断されるべきところ、老人娯
 楽室というその施設の性格上、喫煙者による同施設の利用上の便宜を優先させ、
 同所を禁煙とせず、換気施設(換気扇)を設けるにとどめるという考え方も十分
 ありうる」としている。
  ところが、特別区の上部団体であった東京都が作成した東京都分煙化ガイドラ
 イン(甲第5号証)では、第4(4)において、「施設内の場所ごとの具体的な
 分煙化の方法は、別表に定めるところによる。」として、別表で施設の部分ごと
 に詳細に方法を定めている。この記述よりして、ガイドラインは、原審が述べる ように総合的に判断して、喫煙対策をすべきとしているのではなく、個別・具体
 的に対策をすべきとしているのである。
  とすれば、原判決がなぜ「総合的に」になどという意味不明の熟語を用いているのかはわからないが、原判決が原告の主張を排斥していることよりすれば、原判決の言わんとすることは、ガイドラインを守らなくても一向にかまわないとしていることになる。
  しかし、ガイドラインは喫煙対策の最低の基準として公の団体が定めたもので
 あり、人権たる「嫌煙権」を尊重するものなのである。このような基準ですら守
 らなくもかまわないなどとするのは、「嫌煙権」の人権としての性質を全く無視
 し、人権とはいえない喫煙の自由を過大視するものであり、憲法13条、25条
 に違反するものである。そして、この違反は結論に影響を与えるものであり、原
 判決は取り消されるべきである。
(3)原判決の誤りその2
  また、原判決は20ページにおいて、「(ガイドラインが)仮に不十分なものであるとしても、その点は喫煙のもたらす健康への影響に関しての今後の科学的知見の集積、喫煙についての社会一般の考え方の変化に応じて逐次改善を加えていくしかないものというべきである。」としている。
  しかし、ガイドラインが不十分なものであるならば、受動喫煙の被害が生じて
 いるのであり、人の生命・身体に対して危険な状態が生じているということにな
 る。このような事態は人権たる「嫌煙権」からして到底認められない。ガイドラ
 インが不十分なものでもかまわないなどとはいえないのである。
  原判決はこの点に関し、憲法13条、25条に違反し、「仮に」などと仮定的
 な判断をするのみで、ガイドラインが十分な基準か否かについて判断せずに原告 の主張を排斥したのであり、取り消されるべきである。
(4)原判決の誤りその3
  さらに、原判決は25ページにおいて「平井福祉センターで執務する職員の受 動喫煙量が零になるなどと認定していない」としている。
  しかし、原告は受動喫煙量が零にならないから問題であるとしているのであっ
 て、判定がその点、零になるしているのは問題であるとしているのである。
  原判決が認定するように、受動喫煙量が零にならないならば、生命・身体への 危険はが存在するのであり大問題である。「嫌煙権」よりすれば、このような事
 態は認められることではない。
  しかるに、原判決はこのことを容認しているので、この点でも原判決は憲法13条、25条に違反し、取り消されるべきである。
(5)原判決の誤りその4
  加えて、原判決は19ページにおいて、「喫煙が喫煙者のみならず非喫煙者の
 健康に悪影響を及ぼすとの科学的知見が存する一方で、たばこが古くからの嗜好品で、喫煙の精神、心理面における効用を指摘する意見もある(中略)右の判断 基準は相当として是認できる。」としている。この点は、既に、2で理由不備と主張したが、仮に、これが原審がETSが重大な危険物であることを認めたうえで、古くからの嗜好品であることを理由に、原告の主張を排斥するということならば、「嫌煙権」を喫煙の自由より後退させるものであり、憲法13条、25条に違反するものである。
 
4 憲法14条違反
  原審が、17ページにおいて、「平井福祉センターにおいて非喫煙者への配慮
 がされているかどうかは、同施設の目的、同施設の各部分の用途、利用者への区
 分等を考慮して総合的に判断されるべきところ、」としている点、22ページに
 おいて、「施設の各部分について禁煙の措置をとるかどうかは、右ガイドライン
 等を尊重しながら、同施設の目的、同施設の各部分の用途、利用者の区分を総合
 的に考慮しながら、総合的に判断されるべきところ、老人娯楽室というその施設
 の性格上、喫煙者による同施設の利用上の便宜を優先させ、同所を禁煙とせず、
 換気施設(換気扇)を設けるにとどめるという考え方も十分ありうる」としてい
 る点は、憲法14条の定める平等権にも違反する。
  なぜなら、地方公務員法第24条第2項は、職員の勤務条件は他の地方公共団
 体の職員と権衡を失しないように考慮しなくてはならないと定めているところ、
 同じ東京都内で、東京都庁の職員と江戸川区の職員との間に、生命・身体の安全
 に関わる根本的な労働条件に大きな格差が生じてしまうからである。
 
5 憲法82条第1項違反及び口頭弁論の公開原則違反(民事訴訟法第312条第
 2項5号)
  原審は、甲第15号証を原告の求めにも関わらず、公開の法廷で再生しなかっ
 た。裁判の公開の趣旨は、裁判の公正な運用及び裁判に対する国民の監督を保障
 すること、国民の知る権利(憲法21条)の充足である。
  ビデオテープのような準文書は、通常の文書と異なり、外観から内容を知るこ
 とはできず、証拠調べは、機械による再生により行うしかない。とすれば、上記
 裁判公開の趣旨よりして、ビデオテープの再生が公開の法廷で行われるべきであ
 り、原審の裁判官のいうように、持ち帰り見るというのは、掲記条項に違反する
 ものである。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
平成13年(行ノ)第38号事件
                      申立人    河村昌弘
                      相手方    特別区人事委員会
 
      上 告 受 理 申 立 理 由 書
 
  平成13年5月1日
                   上記 申立人    河村昌弘
最高裁判所 御中
 
原審には次に述べるような法令違反があり、法の解釈に関する重要な問題を含んで
おり、その誤りは原審の結論に影響をあたえるものである。
 
1 弁論主義違反
  原判決は、19ページにおいて「たばこが古くからの嗜好品で、喫煙の精神、
 心理面における効用を指摘する見解もある」とし、20ページにおいて、「喫煙
 の健康被害」について、「見解の分かれるところと考えられる」としていること
 からして、結論として喫煙が大変な健康被害を与えることについて判断していな いかそうでなければ、否定していることになる。判断していないとすると理由不 備になるので(上告理由書参照)、否定しているとして、以下主張する。
  本件訴訟においては、喫煙の健康被害は、判定の違法性を基礎づける事実であ
 り、主要事実、または準主要事実と考えられる。したがって、その事実の認定は、 当事者の主張に基づいて行われなければならず、また当事者の自白があれば、
 そのとおり認定しなくてはならないはずである。
  ところが、喫煙の健康被害について否定するような主張は、一、二審を通して
 も被告からはなかったのである。さらに、喫煙の健康被害について肯定する証拠
 はあれども(甲第2号証、3号証、7号証、8号証、9号証、10号証、14号
 証)、否定する証拠は提出されていない。
  とすれば、喫煙の健康被害については、「10万人のうち、1万数千人に対し
 致死リスクを持つこと、および中毒性を有する危険物であること、についてはこ
 れと異なる認定はできないはずである。
  さらに、被告は答弁書においても、喫煙の健康被害については争っていないの
 であるから、擬制自白が成立する(民事訴訟法159条)。
  しかるに、原判決は当事者の主張に基づかずに「見解が分かれる」などと認定 して、喫煙の有害性を否定している。よって、弁論主義に違反する法令違反があ るのである。
 
2  経験則違反
  1で述べたような認定は、事実を否定する証拠がないのに、異なった認定をす
 る点で、経験則にも違反するものである。
  自由心証主義といえどえも、裁判官の恣意を許すものではなく、経験則に従わ
 なくてはならない。事実を否定する証拠と肯定する証拠双方がある場合はともか
 く、肯定する証拠のみあり、否定する証拠がないにも関わらず、事実を否定して
 認定するのは、民事訴訟が形式的真実主義に支配されること、近代の証拠裁判主
 義から考えても、経験則に違反するものである。
  また、本件では、原告の立証手段である、人証、書証(文書提出命令)をすべ
 て却下し、さらに、医学博士という専門家の意見書が提出されている(甲第2号
 証)にも関わらず、医学に関しては全くの素人である裁判官が、意見書と異なる
 喫煙の健康被害がないという事実を何の理由もなく(証拠に基づかず)認定して おり、いわゆる専門的な経験則を無視している。
  このような専門的経験則を無視するのは、自由心証主義の限界を越えるもので
 あり、医学についても何でも精通しているという裁判官の驕りを示すものとされ
 てもやむをえないものである。
  なお、専門的経験則については、上告の対象にならないとする見解もあるが、
 青山善充「新民事訴訟法講義」(有斐閣大学双書P.297)は、「常識的か専門 的か問わず、高度の蓋然性あるいは必然性をもって一定の事実を推論せしめる経 験則の無視あるいは誤用がある場合にのみ、上告理由となると解すべきである。 けだし、この場合には、その結果として謝った事実認定、謝った裁判がなされる 過程が客観的に認識できるし、こうした高度の蓋然性あるいは必然性を伴う経験 則についての裁判の不統一がある場合には、これを是正することも上告審の任務 と考えられるからである。」としている。
  常識的、専門的の区分は明確ではないうえ、専門的な経験則であればあるほど
 客観的であるのが通常であることよりすれば、青山教授の見解の方が理にかなっ たものである。
  そして、喫煙による健康被害は国際医療機関であるWHOも認める高度の蓋然 性のあるものである。とすれば、原判決の経験則違反は明白である。
さらに、原判決は、18ページにおいて、「事務室内のほか、トイレ等の共用
空間が禁煙とされており」としているが、これも経験則に違反するものである。 なぜなら、甲第13号証の1のように、被告自ら禁煙の場所に灰皿を置いているのであり、その場所は禁煙でない禁煙場所なのである。灰皿が置かれている場所を禁煙と認定するのはまさしく経験則に違反するものである。
 
3  地方公務員法、地方自治法に関する解釈の誤り
  原審は18ページにおいて禁煙と表示されている場所で喫煙する職員がいたと
 しても、「禁煙の措置には、刑罰や直接の行政強制の裏付けがあるわけではな   く、」「各職員や施設利用者が喫煙についての認識を高め、またに相互に注意喚起するなどの方法により解消するほかない。」としている。
しかし、地方公務員法では、第35条において、職務に専念する義務を定めており、一酸化炭素によって脳に障害を与え、能率を低下させるような喫煙は本来本条項に違反するものであるうえ、第32条は上司の職務上の命令に従う義務を定めているのであるのであるから、禁煙を指示されたのに従わない者は、本条項に違反することになる。
とすれば、禁煙場所で喫煙するような職員には、地方公務員法第29条に基づ く懲戒をすることができるのである。
  また、地方自治法第244条第2項では、正当の理由がある場合は、住民が施
 設を利用することを拒むことができる旨規定しており、禁煙の場所で喫煙する者
 の利用を拒むことができるのである。
  とすれば、原審の認定するように行政制裁などの方法がなくどうしようもない
 ということはない。施設の禁煙を徹底するため、地方公務員法や地方自治法の適
 用が可能なのであるから、原告が求めるように、禁煙と掲示するのみでなく、そ の徹底を求めることは法的に可能なことである。
  この点、原審は、地方公務員法、地方自治法の解釈を誤った違法なものである
 
4 国連人権A規約第7条、11条に関する解釈の誤り
  原判決は、判定が上掲条項に違反しないと何の理由もなく述べている。
  しかし、第7条は「安全かつ良好な作業条件」、11条は、「到達可能な最高
 水準の身体の健康を享受する権利」を認めているのであるから、A規約は、到達 可能な再高水準の安全かつ良好な作業条件」を享受する権利を認めていると解す るべきである。
  そして、たばこ問題に関して言えば、の上記作業条件は、職場施設の禁煙化、 分煙化である。
  そのうえ、施設の禁煙化には何の技術的制約はなく容易に到達可能な水準の条 である。
  また、東京都のようなガイドラインの遵守も現に都庁が行っているのであるか ら、これも到達可能な水準である。
  しかるに、原審は老人娯楽室が禁煙でなく、上記ガイドラインに沿わないこと
 を認めながら、A規約には反しないとしているのである。よって、右規約の解釈 適用を誤った違法なものである。
 
5 判例違反
  原審は原告の判例違反に対して何の理由付けもしていない。老人娯楽室につい
 ては、原審も23ページにおいて東京都の分煙化ガイドラインに沿っていないと
 認めているのであって、喫煙場所の区画すらされていない。このことより最高裁
 平成10年(オ)第1958号事件に違反すると考えられる。以下、再度、判示
 部分(名古屋地裁平成8年(ワ)2740号事件(第一審))を引用する。
  「被告が、受動喫煙の蔵する危険に対して配慮すべき義務の具体的な程度、事
 項、態様としては、当該施設の具体的状況に応じ、喫煙室を設けるなど可能な限
 り分煙措置を執るとともに、原則として職員が執務のために常時在室する部屋に
 おいては禁煙措置などをとるなどし(これらの措置が庁舎の配置上の理由等によ
 り困難な場合であっても、少なくとも、執務室においては喫煙時間帯を決めた上、
 これを逐次短縮する措置を執るべきである。)、職場の環境として通常期待され
 る程度の衛生上の配慮を尽くす必要があるというべきである。」
 
6  行政事件における立証責任の問題
  本件においては、控訴人は
   1 ETSは十万人うち一万数千人の命を奪うこと
   2 ETSは最悪の室内空気汚染因子である
   3 現在使われているETSの物理的生物学的指標は適切である
   4 非喫煙者は職場で健康被害をもたらし得るレベルのETS暴露をこうむ    っている
   5 非喫煙者のETS暴露状態の評価は疫学的手法でじゅうぶん可能である。
   6 ETSの健康被害に関する科学的コンセンサスは得られている。
   7 非喫煙者の対するETS暴露を完全に防止できない換気強化の措置はE    TSの規制策としてまったくふじゅうぶんであり、完全禁煙または別系統    の気設備を備えた区画による完全分煙が必要である
  ことを主張立証している。
   これに対し被告は何ら反論せず、立証もしていない。
   にもかかわらず、原審は原告の主張を排斥している。
   この点は、既に原審における第一準備書面 三で主張しているが、行政事件
  における立証責任を原告側に負わせるもので、法の解釈を誤ったものである。


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