カリフォルニア州政府
技術助言文書 パートA
環境たばこ煙の空気汚染毒物としての鑑別の提言
カリフォルニア州環境保護局
大気資源局
環境危険因子評価局
大気資源局
固定発生源部
空気環境測定課
2005年6月
大気中での残留性(第6章)
種々の要因の中でも、たばこの可燃性、酸素の不十分な供給、炎心での温度勾配の存在は、ETSを数千の成分の化合物に変化させる。ETSの科学的性質は複雑なため、化合物全体の空気中での残留性を議論するのは実際的ではない。しかしながら、いくつかのETSに関連する化学物質グループの大気中での反応のデータは存在している。それゆえ、この章では、我々は、ニコチン、N−ニトロアミン、PAHを含むETS内の化学物質グループの大気中で残留性についてわかっていることに関して議論をすることとする。
研究ではたばこの燃焼には、熱分解、熱合成、蒸留という3つの重要な化学反応の型が含まれていることを示されている(NIH,1988)。この反応の結果として、数千種類のガス、粒子成分が発生する。最終的に、これらの複雑な構成物は周囲の空気によって薄められるにしたがって、更なる化学変化することとなり、独自の寿命を持つことになる独自の化合物を生成してゆく。Morawska et al. (1997)によれば、実験室と室内環境の研究から、ETS成分の混合体の空気中における寿命は、換気割合、湿度、大気の状態により、数時間の違いが生じるとされている。
A ガス状物質の大気中での反応
ガス状のETS成分は大気中で他の汚染物質、日光との反応し、新しい化学種を生成しうる(第3章 表3−2 ETSで見いだされるガス状成分を見よ;付録 Aには網羅的なリストがある)。1,3−ブタジエンは最初、大気中で、水酸化ラジカル(OH)、硝酸ラジカル(NO3)、オゾン(O3)と反応し、アクロレインとホルムアルデヒドを生成する(Atkinson,1994;Skov et al. 1992)。ガス状物質は粒子状物質に変化しうる。例えば、ガス状態のアンモニアは、ガス状の硝酸と反応し、硝酸アンモニウムの粒子を生成する。硝酸アンモニウム暴露は、目や皮膚の激しい疼痛を引き起こす(ARB,199a)。逆に、時間が経過するにつれて、ニコチン、ネオフタジエンなどの反揮発性のETS成分は粒子状態からガス状態へと移行する。
ガス状のETS化合物は最初次のように反応する。
・日光による光分解
・O3 (オゾン)
・夜間におけるNO3ラジカル
・硝酸ガス(HNO3)
・二酸化窒素(NO2)
・主に午後、夕刻におけるヒドロペルオキシラジカル(HO2)
ほとんとのガス状態の有機化合物にとって重要な反応は光分解とそれに続く、OH,NO3とO3との反応である。いくつかの化合物では、ひとつまたはそれ以上の化学種(HO2,NO2,またはHNO3)が相当の速度で反応する。例えば、HO2ラジカルはホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリオキサルと反応し、NO2は複合化ジエンと反応し、HNO3ガスはアミンと反応する。表6−1はETSで見出されるガス状物質の大気中での寿命と、主要な除去過程を示している。
表4−1
いくかのETS成分の大気中での寿命の概算
|
主要な除去過程 |
大気中での寿命 |
1,3ブタジエン |
OHラジカル |
2時間1/ |
アセトアルデヒド |
OHラジカル |
9時間1/ |
アクロレイン |
OHラジカル |
7時間1/ |
ベンゼン |
OHラジカル |
10日2/ |
ホルムアルデヒド |
OHラジカル |
4時間 |
N−ニトロソルメシラミン |
光分解 |
5分 |
トルエン |
光分解 |
2.5日 |
PHA(ガス状態) |
OHラジカル |
3−27時間 |
出典:ARB,1998
1/ 日中の12時間平均(OHは2.0×106mol/cm3)
2/ 1日=OHは2.0×106mol/cm3で12時間
ガス状物質が粒子に吸収されるとさらなる化学変化は起こりにくいといえる。粒子に吸収されたガス状物質は光分解と地表におけるO3、5酸化2窒素(N2O5)、NO2、HNO3、亜硝酸(HNO2),硫酸(HSO4),過酸化水素(H2O2)との反応により分解しうる。
B 粒子状物質の大気中での反応
0.01−10μmの粒子はしばしばPM10と呼ばれる。特に、ETSに関連する粒子の大きさはすべて0.01から1.0μmに入る(U.S. EPA,1992)。ETSは粒子の大きさによる独自の持続性を持つ粒子状物質を含んでいる。大気中の粒子状物質に与える二つの大きな影響過程は、
・粒子の乾燥沈積、湿潤沈積(すなわち、物理的除去)と
・粒子に吸収された物質の大気中での変性
乾燥沈積は、広く、降雨のないときに空気汚染物資が大気中から物質表面に移動することと定義されている(Davidson and Wu,1989:Seinfeld and Pandis,1998).。乾燥沈積に影響する主要な要因は大気の乱れ、空気汚染物質の化学的、物理的性質、沈積する物質表面の性質である。0.05から0.1μmの大きさの粒子は、空気中に長時間そのまま存在し、はるか遠くまで移動しうるとされている(Cohen,1998)。
直径0.05から1μmの粒子のほぼ完全な除去は湿潤沈着による(Leuenberger et al.,1985,Ligocki et al.,1985 a,b)。ETS粒子はこの(0.1−1μm)大きさの範囲にあるので、湿潤沈積によって大気中から効率よく除去される。湿潤沈積は、降雨、曇天、霧、降雪にときに発生する。
C ニコチン
ニコチンはたばこの中の主要なアルカロイドであり、たばこの中毒性の主要な寄与源である。ETSでは、ニコチンは環境中でほとんどすべてガス状態で見いだされる(Eudy et al.,1986;Thome et al.,1986;Eatough et al.,1986;Hammond et al.1987)。周辺温度で蒸気圧10−6と10パスカル(Pa)の間にある有機化合物は反揮発性有機化合物と分類されている。298゜Kで、ニコチンは蒸気圧2.7Paであり、大半がガス状態で存在している(Von Loy et al.,2001)。ETSのニコチンで粒子状態となっているのは5パーセント未満である(Jenkins et al.,2000)。また、副流煙では、環境空気のアルカリの性質がニコチンを粒子状態よりもガス状態へと誘導する。
ニコチンなどの反揮発性のETS成分は環境状態により、異なる残留性を示す。環境空気中では、ニコチンと光化学的に生成されたハイドロキシルラジカル、オゾンとの反応が生じうる。環境空気中におけるニコチンの半減期はおよそ1日と報告されている(Spectrum Chemical Facy Sheet,2003)。
室内空気中では、ガス状態のニコチンは周囲の表面へと素早く拡散し、その表面と相互反応し、他のETS成分よりも速く環境から除去されるとされている。(Eudy et al.,1986)。研究は様々な周囲の表面にニコチンが吸着される結果として、ニコチンのレベルは急速に減衰することを示している(Eatough et al.,1986;Piade et al.,1999;Von Loy et al.,2001)。それゆえ、ニコチンは室内での半減期が約2時間であることより、数時間前に発生したETS暴露の合理的指標である(Trinh and Huynh,1989)。研究はまた吸収されたニコチンが周囲の壁やカーペットなどの物質に存在していて、時間をかけて環境に再放出されうることを示している(Trinh and Huynh,1989)。Piade et al.(1999)の研究によると1rのニコチンは1uの綿の服に吸収され、数時間にわたり再放出されうるとされている。The Von Loy et al.(2001)の実験室の実験ではニコチンの周囲の物質からの脱着が観察された。 カーペットで覆われた20m3環境検査室において、一瞬ニコチンを昇華させ(計測ニコチン濃度4.4μg/m3)、その後、実験室を清浄な空気で3日間にわたり、清浄化してみた。実験室を再度封鎖すると、ニコチン濃度は徐々に1μg/m3,にもどり、ニコチンが周囲の物質の表層から再放出されていることが示された。
D タバコに特有のN−ニトラサミン
ニコチンは発ガン物質とされてはされていないのに対し、いくつかのたばこ特有のニコチンと他のたばこアルカロイドから生成されてくるニトロサミン(TSNA)は、発ガン性があるとされている(Hecht and Hoffmann,1988)。TSNA(図6−1を見よ)は、乾燥過程、製造過程、発酵、たばこ製品の燃焼の間のニコチンのN−ニトロソ化によって生成される(IARC 1986;Ashley et al.,2003)。TSNAの喫煙による生成量は、たばこの硝酸塩成分の量による。いくつかの黄色種タバコは乾燥過程でNOxにさらされるとより高い濃度のTSNAを含むようになる(Ashley et al.,2003.)。
図4−1
ニコチン遷移
NNN:N’−ニトロソノルニコチン
NNK:4−(メチルニトロサミノ−)−1−(3−ピリディル)−1ーブトン
NAT:N’−ニトロソアナタビン
N’−ニトロソノルニコチン(NNN)と4−(メチルニトロサミノ−)−1−(3−ピリディル)−1ーブトン(NNK)は、TSNA類の中で最も潜在的に発ガン性があるとされている(Ashey et al.,2003)。
N−ニトロソ化合物は紫外線と可視光線によって、分解する。熱で分解されると、これらの化合物はニトロジェンオキサイドという毒性の煙霧を放出する。
E PAHとPAH派生物
研究者はETSの中に少なくとも10の多環芳炭化水素(PAH)の異性体を特定しており、それらガンを引き起こす毒性を持つ空気汚染物とされている(Hoffmann and HOffmann,1997;OEHHA,1997)。あるPHAは大気中のNOX の放射物と反応しニトロ派生のPHAを生成する。ETSの中では、ガス状態と粒子状態のPAHが計測されている(Gundel et al.,1995)。表6−2は、ETSの中で特定されているガス状態と粒子状態のPAHのリストである。
表6−2
ETSの中で検出されるPAH
ガス状態のPAH |
粒子状態のPAH |
1−メチルナフタレン |
1,2−ベンゾフルアレン |
2−メチルナフタレン |
アンセラセン |
アンスラセン 1/ |
ベンゾアンセラセン |
ベンゾアンセラセン1/ |
ベンゾ[a]フルオレセン |
クリセン1/ |
ベンゾ[b]フルオレセン |
フルオランセン1/ |
ベンゾ[k]フルオレセン |
フルオレン |
クリセン |
ナフタレン |
フルオレセン |
フェナンセレン |
フェナンセレン |
ピレン1/ |
ピレン |
|
トリフィニレン |
出典;Gundel et al.,1995.
1/ PHAはガスと粒子の間の状態で放出される
ETSの中で最も潜在的に発ガン性のあるPAHの一つはベンゾ[a]ピアレンである。ベンゾ[a]ピアレンは大気中でほとんと完全に粒子状態で大きさ3μm以下で存在する、それゆえ、湿潤沈積、乾燥沈積をする(ARB,1997b)。ベンゾ[a]ピレンの粒子の大気中での半減期は平均3.5から10日くらいとされ、寿命は5から15日である(ARB,1997b)。他のPAHの寿命は表6−3に示されている。
表6−3
いくつかのPAHの大気中での寿命
ETSの中のPAH |
以下との反応による寿命 |
|
OHa/ |
NO3 |
O3 c/ |
1−メチルナフタレン |
3.5時間 |
50日b/ |
>125日 |
2−メチルナフタレン |
3.6時間 |
40日 |
>40日 |
アンセラセン |
1.4時間 |
|
|
フルオランセン |
〜3.7時間d/. |
〜85日 |
|
ピレン |
〜3.7時間d/ |
〜30日 |
|
出典:ARB,1988
a/ 日中12時間の平均OHラジカル濃度 1.5×106 モルcm-3 (prinn et al.,1987)
b/ 夜間12時間の平均NO3ラジカル濃度 2.4×106 モルcm-3 NO2濃度 2.4×1012 モルcm-3 (Atkinson et al.,1986)
c/ 24時間の平均O3濃度 7×1011 モル cm-3 (Logan,1985)
d/ イオン化ポテンシャルと比例関係のOHラジカル反応割合を使用(Biemann et al.,1985,1990;Atkinson et al.,1990)
揮発性の2環から4環のPAHは大気中でほとんどがガス状態で存在する(Atkinson and Arey,1994)。ガス状態のPAHは大気中のハイドロオキシル(OH)ラジカル、NO3ラジカル、オゾンと反応するが、PHAの減衰過程で一般的に優勢なのはOHラジカルとの反応である(atkinson and Arey,1994)。OHラジカルとPAHの反応の生成物はハイドロキシルPAH、ニトロPAH,開環のジカルボニルの生成物を含む(ARb,1997b)。大気中のガス状態の2環、4環の揮発性PAHの半減期は、OHラジカルとの反応のため、2から19時間であり、寿命は3から27時間とされている(ATkinso and Arey,1994).。