◆五番(田中健 君) 通告に従い質問します。二〇〇六年五月、北米トヨタにおけるセクハラ事件が報道されました。米国では、このような裁判で原告が勝訴すると、被告となった企業には犯罪防止義務を怠ったとして、懲罰的賠償金が科せられます。今回の事件では、その額が四十五億円になるとも報道されました。
セクハラとは一般的に「性的嫌がらせ」と訳されます。セクハラと聞いて、通常イメージされる光景は、卑猥な言葉を投げかけたり、相手の同意も無しに体を触ったりすることを言うようです。
しかし、セクハラを単に「性的嫌がらせ」と日本語化するのは誤訳です。単なる「性的嫌がらせ」では、セクハラの本質を理解することは到底できません。日本でセクハラと言われる行為は、そのほとんどが痴漢と言うべき行為でしょう。ではなぜ痴漢をセクハラとは言わないのか。それは痴漢によって行われる一方的な性的嫌がらせには、そこに暴力があっても権力が無いからです。
セクハラが成立する必要不可欠な要件は、そこに権力があるということです。具体的には上司と部下。教師と生徒。議員と秘書のような関係の中で発生する性的嫌がらせがセクハラに該当します。だからこそ、セクハラとは身近な上位者から下位者へと向けられる権力犯罪と言えます。この小さな権力構造による犯罪は誰もがその加害者や被害者になる可能性と危険性があるものなのです。
しかし、セクハラが両者だけの問題であれば、世間を震撼させることは無かったでしょう。殴った、殴られたのような暴行罪のように、加害者の賠償と社会的制裁程度で問題は解決するはずです。
しかし実態は違います。責任は加害者のみならず、権力の源泉を保証した企業全体にまで及ぶのです。だからこそ米国では、加害者である個人の資産を大きく超えた億円単位の賠償金が原告に対して支払われることを可能とさせたのです。直接の加害者で無いにせよ、対策をしなかった、現状を放置したとなれば、経営者の責任も問われ、場合によっては辞任を余儀なくされることもあり得るのです。
つまりセクハラ対策とは、人権擁護の側面よりも、企業防衛としての危機管理として、経営者たちに理解されてきたのだと言えます。ですから、多田区長におかれましても、江戸川区役所を守るという観点から、真剣にこの質問に対して耳を傾けてください。
米国企業ではどこも巨額の賠償金を請求されないように対策を取っています。これ即ち企業の危機管理を徹底することが必要に迫られているからです。新聞報道によりますと、セクハラ防止のために、社内恋愛は届け出制にしている企業もあるそうです。恋愛関係が破綻したときに、これまでの交際が無理やりであったと、訴えられないように、恋愛証明書まで発行している企業もあるとのことです。
江戸川区役所の中でも、職場結婚をした職員はたくさんいるはずです。その陰には、結婚に至らず別れてしまったカップルもたくさんいたことでしょう。あまりにもオープンな職場恋愛は、潜在的にセクハラが発生するリスクを抱えることにも成ります。よって、江戸川区役所でも、職場恋愛は禁止する、または届け出制にして、恋愛証明書の発行も検討に値するかと思いますが、区長のお考えはいかがなものでしょうか。
このような話をすると決まって笑い出し、真剣に考えない人もいます。そのような人は危機意識が低すぎます。到底責任ある立場に立てる人だとは思いません。権力が犯罪の源泉に有ると言うことを考えれば、問題はセクハラのみに限定はされないのです。上司が率先して良好な職場環境作りをしてこなかったとなれば、それ即ち、企業全体の責任が問われる事件へと発展する可能性を持つのです。
セクハラ以外にも、パワーハラスメントやスモークハラスメントのように、働きやすい労働環境が実現されずに、苦労された職員も多数いたはずです。
過去の事例です。事務所での禁煙・分煙が徹底されず、劣悪な職場環境が原因で健康被害を受けたとして、区職員から江戸川区が訴えられたことがありました。二〇〇四年の判決により、江戸川区は敗訴しています。賠償命令は五万円でした。つい最近も区職員によるセクハラまがいの行為があったとの報告を助役から受けました。これらの件に関して、区長の見解をおうかがいしたいものです。
企業防衛の意識が進む中、問題を未然に防ぐことを目的とした制度を行政機構にも取り入れるべきだと思います。江戸川区が敗訴して、支払わされるお金は区民の責重な税金であることを、区長はもっと真摯に理解してください。
念のために皮肉を込めて言いますが、セクハラ対策とは、セクハラがあってもそれを隠蔽し、無かったこととして、結果、江戸川区が責任を取らなくても済む対策などでは決してないことを事前にお伝えしておきます。
さて、それでは最後にまとめて五つ区長にお尋ねします。
一、北米トヨタのセクハラ事件に対して、特に企業責任として支払わされる懲罰的な賠償金についてどのように思われますか。
二、その意味が正確に伝わってこなかったにせよ、セクハラ自体は古い言葉ではありません。江戸川区における危機管理はまだまだ不十分だと思います。マニュアルを充実させて、しっかりした対策をするべきだと思いますが、いかがでしょうか。
三、セクハラ対策としての職員研修は、新人職員に対してではなく、むしろ部長・課長のような管理職にこそ必要なはずです。今後、管理職向けの職員研修を充実させるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
四、二〇〇四年、江戸川区は区職員からの訴えにより敗訴しています。被害を受けた原告に対して、区長はどのようなお考えをおもちでしょうか。直接お会いして謝罪などはされましたでしょうか。
五、最後に、セクハラの危険性を含む職場恋愛全般についてのご見解をお聞かせ下さい。
以上、私の第一質問を終わります。(拍手)
○副議長(春山仲次 君) 多田区長。
〔区長 多田正見君登壇〕
◎区長(多田正見 君) お答えいたしますが、私は、何と申しましょうか、常識というものをいろいろ、どのようなものかということを考えながら、余り違和感のないお答えでまいりたいと思いますが、北米トヨタの問題は、外国における事例でありますから、北米における社会的なコンセンサスというものがどういうことかということによりますので、ちょっと私もコメントができないのでございます。
セクハラというものは、権力的なものを背景にということでありますが、そういうものも多いと思うのでありますが、しかし、そうでないものもあるわけでありまして、つまりは倫理観、あるいは人間的な、つまりお互いに尊敬し合うという関係がしっかりできていれば、それは上司部下であれ、あるいは同僚同士であれ、そういうことにはならないということでありますから、特にどこに向かってどうということでなく、その職場全体をそうした高い次元の常識というものをお互いが持ち合うように努力するということかと思います。場合によって、その組織が責任を問われるということもあり得ると思います。そのことに対する危機管理といいましょうか、そういったことも確かにそれは考えておくべきことだと思います。
セクハラ研修云々とありましたが、このセクハラ研修もないわけではありませんが、どういうことをやっているかは総務部長から具体的にお話をさせていただきます。
たばこの敗訴の問題でありますが、実は二年前の判決でありまして、その事態が起こった時点というのは平成六、七年の次代のことであります。当時、まだ分煙とか何かがそれほど大きな話題にならない時代に起きたものでございますが、本人は、それは分煙対策ができていなかったからだということを五年後に裁判として提起いたしました。自分が医師の診断書をもって、この職場を変えてくれということを言ったのにもかかわらず、そうしてくれなかったと。二カ月後にそれが実現したわけでありますが、それで三十万円を要求したわけでございます。裁判官は、そのことについて、当時は当時の状況があったけれども、現状の中で江戸川区の分煙対策はしっかりできているということを評価いたしました、判決文の中で。それから、特にその人物とたばこの被害との因果関係は触れておりませんので、コメントしておりません。しかしながら、三十万円の要求に対して、診断書を提示して職場を変えてくれということについて、二カ月それをやらなかったということは認めましょうということで、五万円の判決を出しました。
これがおととしのことでございまして、私ども、確かに貴重な五万円でございますから、控訴すべきかどうかということは、一応それは考えたのでありますが、ただ、私も法律の専門家のお話を聞かせていただきました。恐らくこの判決の意図するところは、二年前というと、相当に分煙、あるいは受動喫煙ということが、健康増進法などもできてきておりまして、非常に社会的な関心の高い中での判決でありますから、裁判官としては社会に対する、そういった諸般の問題に対する警鐘として、この判決を出していると受けとめた方がいいでしょうねと、こういうことでございました。あえて、これに対して控訴するということは、江戸川区のこの種のことに対する意識を問われることになるかもわかりませんと。ここは、それで決着をつけた方がいいのでしょうと。中身は、これは勝訴ですと。中身は、実質的には勝訴ですと、そういうふうなコメントをもらいまして控訴をしなかったと、こういうことでございます。
職場恋愛は、私は大いにあってもいいのではないかと思うのでございます。職場恋愛の結果、幸せな家庭を築いている私ども職員もたくさんおりまして、大変模範的な家庭を維持している、これを何か規制するということは大変な人権侵害でないかと思います。
◎総務部長(櫻田孝 君) セクハラ研修の件でございますけれども、当然これは人権上許されない行為でもございまして、セクハラをする方がその気がなくても、相手がそう思えば、これはそういうものでございまして、そういったことも含めまして、職員の意識啓発というんですか、こういったことについては、節目節目にやっているところでございます。特に、懲戒処分のこともございますけれども、これにつきましては、この辺も処分にきちんと組み入れまして、しかも職員に周知をして、こういうことをすればこういうことになんです、場合によっては免職にもなります、こういうようなことで、いわゆる懲戒処分の指針もつくって、しかも職員には周知をしているところでございます。
部課長、管理職の自覚研修ということでございますけれども、これにつきましても、節目節目にやるということでございます。
それから、こういうことがあったよということにつきましては、私ども職員課もそうでございますけれども、労働組合の方にもそういう窓口を設けておりまして、そういうことを受けまして、客観的に委員会という形で、内部的にそういう組織を持っておりますけれども、そういった形で対応していきたいと、こういうことでこれからも組織の危機管理というものは徹底してまいりたいと、こう考えております。
◆五番(田中健 君) お答えありがとうございました。北米トヨタの件に関してコメントをいただけなかったんですけれども、御承知のとおり日本は、アメリカで起こったことが何年か後に日本に起こり得るということがいろいろな事件で言われますので、注目はされておいた方がよろしいかなと。明日の日本の姿なのかもしれないということで注目されておいた方がいいかなと、そのようには思います。
セクハラ対策ということで、特に今部長の方から管理職についてというふうに、その都度その都度しているというお話でしたけれども、できればもう少し具体的なところで、どういうことをしているのかというのをわかるようだったらば、追加として教えてください。
たばこの問題に関しては、時間がありませんけれども、区長の見解とは私は全く違っています。少なくとも十年前は分煙はしっかりしていなかったと。そういうようなところで起きた問題なので、全く違うと、このことだけお伝えして、私の質問を終わります
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