「地方税法違反で無効」と返還を命じる判決 
2002.03.26
 銀行を対象に、所得ではなく事業規模に応じて課税する東京都の外形標準課税(銀行税)条例の是非が争われた訴訟で、東京地裁は26日、都に対し、都市銀行など18行が納めた00事業年度分の税金約725億円を返還し、約18億円を賠償するよう命じた。藤山雅行裁判長は「条例は地方税法に違反する無効なもので、課税も無効だ」と指摘した。都側は控訴する方針だ。

 銀行側勝訴の判決であり、毎年約1000億円の税収を見込む石原慎太郎都政には打撃となって、来春の都知事選に影響する可能性もある。同様の課税を導入した大阪府への影響も避けられない。東京都は今回の判決を受けても、税の徴収は続けていく方針だが、判決が仮執行も認めたため、都は400億円余の供託金を用意する必要がある。

 判決は「事業の情況に応じて」外形標準課税を導入することを認めた地方税法の規定について、「事業が順調でも所得が納税額に適切に反映されないといった事業自体の客観的情況が必要」と判断した。そのうえで「銀行業にはそうした事情はなく、外形標準課税は許されない」と結論づけた。

 都側は「銀行はバブル期より利益を上げながら法人事業税をほとんど負担しておらず、『事業の情況』に当たる」と主張したが、判決は「一時的な景気状況で生じたもので、銀行業自体が有する客観的情況ではない」と退けた。

 判決は、都職員の責任について「立法資料の調査や、知事や議会への正確な情報提供を怠り、重過失に近い」と厳しく批判した。石原慎太郎知事に対しても「政府や銀行側の意見を虚心坦懐(たんかい)に聴けば、違法性を認識できた」と指摘し「条例制定によって、銀行の信用を著しく低下させた」として都の損害賠償責任も認めた。

 銀行側は「特定の銀行を狙い撃ちにした条例は、法の下の平等を定めた憲法に違反する」とも主張したが、判決は違憲性については判断しなかった。また、条例の無効確認については、要件を満たさないなどとして却下した。

 00年10月に提訴した21行(金融再編で18行に減少)は、(1)条例の無効確認(2)負担増分の税金約725億円の返還(3)計21億円の損害賠償――などを求めていた。

 判決を受け、石原知事は「中央集権が続いているのを崩すために東京から引き金を引いた。日本の社会の流れをまったく斟酌(しんしゃく)しない判決だ。判決には感情的な部分もあり、いちいち反論する必要もない」と語った。 【森本英彦】

 吉冨哲郎・都主税局副参事の話 残念だ。判決の中身からすると、全面敗訴に近い判決と受け止めている。負けると思っていなかったので、対応を考えたい。

 佐々木信夫・中央大教授(行政学)の話 新税導入は課税対象者との合意が不可欠で、今回のような抜き打ち課税は自治体の不慣れな面が露呈した形だ。石原知事の政治手法が税という制度にはなじまなかったともいえる。しかし、自治体の課税自主権を行使し、国や他の自治体にも問題を投げ掛けた点は評価できる。政治的にも大きな意味があったと思う。政府税調でも外形標準課税は積極的に論議されるようになり、世論も変わりつつある。上級審に場所を移して議論されると思うが、最終的な決着は微妙ではないか。

【ことば】外形標準課税

 資本金額や売上高などの外形的な事業規模に応じて課税する方式。所得に応じて課税するより景気の影響を受けにくく、自治体の税収が安定する。東京都の条例は00年度から5年間、都内に本支店がある資金量5兆円以上の銀行などを対象に、業務粗利益に3%を課した。

[毎日新聞3月26日] ( 2002-03-26-13:13 )

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