1 はじめに

 このページではなかなか知られていない裁判手続の実際を簡単にお伝えすることとします。
 当然のことですが、裁判には多くの駆け引きがあります。このページを参考にしたことによる責任は一切負いかねますのでご了承ください。


2  訴訟の前に

 なにごともそうでありますが、物事はまず話し合いです。裁判の前に職場の責任者に喫煙対策の要望を出しましょう。
 ただし、その時には提訴を決意していることが前提です。本気でなくては交渉は成立しないのです。

3 訴状提出

 裁判は訴状を裁判所に出すことから始まります。裁判所には必ず訴状を受け付ける窓口があります。(東京地裁では地裁民事事件係)そこに訴状を2通(裁判所用と被告用)を提出します。(行政訴訟では3部となる、これは利害関係人がいた場合を考慮してのことのようです。2部しかなくても受付はしてくれます)。訴状には手数料として収入印紙を貼ります。これは民事訴訟費用に関する法律に定められています。
 更に、訴状や期日呼出状の郵送をするための郵便切手を提出します。この切手の金額、種類は裁判所に聞くと教えて貰えます。裁判所の指示通りの切手を揃えて提出しましょう。この郵便切手のことを予納郵券と言います。
 裁判所の受付では、訴状の内容に不備がないかを確認します。問題がなければ、受付印を押して受付をして、受付表を交付してくれます。受付表には事件番号(平成11年(ワ)第133320号事件など)と事件を担当することになる裁判所が書かれています(民事6部など)。更に通常、訴訟進行に関する照会書が渡されます。これには被告との事前の交渉があったかとか和解をする気はあるのかなどの質問事項が書かれています。これは後で記載して裁判所にFAXなどで提出をします。
 裁判所は24時間受付をしていますので、アフターファイブに訴状を提出することも可能です。ただ、その場合は窓口がしまっていますので、夜間受付の窓口で日付印を押して預かってくれるだけになります。
 訴状の提出は郵便でもできます。慣れてくると郵便で提出するようになりますが、最初は、持参した方が勉強になるでしょう。
 なお、窓口の対応はお役所的で、腹の立つこともありますが、本人訴訟の場合は、低姿勢に聞いて、いろいろ教えてもらう方が得です。当然のことですが、裁判所では事件の中身に関する質問には答えてくれません。原告、被告に対して中立の立場であることからして当然のことです。良く、いわゆる素人の方が事件の中身について相談してトラブルになっているのを見かけますが、裁判所は法律相談をするところではありませんので、それはわきまえましょう。
 手続についての質問には親切に答えてくれる人が多いといえます。

4 訴状とは

 訴状とは、裁判所に対してどういう判決を求めるかを示す申立書のことです。
 請求の趣旨と原因からなります。
 例を見てみましょう。
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       訴 状

  当事者

〒123−4567 東京都禁煙区禁煙町8−9−0
                原 告        河村 昌弘

〒132−8501 東京都江戸川区中央1−4−1
                被 告        江戸川区
                右代表者区長     多田 正見


  請求の趣旨

1 被告は原告に対し金305,870円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

  請求の原因

1 原告は、平成7年4月1日より、被告に雇用されている。
2 原告の所属は平成7年4月1日から同8年3月31日までは、都市
 開発部再開発課再開発第一係(以下「都市開発部」とする)であり、
 同8年4月1日から、同11年3月31日までは江戸川保健所予防課
 業務係であった。
3 原告の最初に所属した都市開発部は喫煙者が多い職場であった。し
 かし、喫煙規制などの喫煙対策は何もなく、人体に極めて有害な環境
 たばこ煙(Environmental Tabacco Smoke  以下ETSとする。)が
 室内に充満していた。
4 都市開発部は屋外にある職場では無論なく、閉鎖された室内である。
5 そのため、原告はETSの吸入(受動喫煙)を余儀なくされた。
6 原告は平成7年5月より、被告に対し、喫煙対策を行うよう何度も
 求め始めた。
7 原告は平成7年5月に受動喫煙が原因と思われる、副鼻くう炎、咽
 頭炎の診断を耳鼻科で受けた。
8 原告はこれ以降、被告に喫煙対策として、空間分煙を講じるよう再
 三に亘り求めて行くこととなった。
9 平成7年6月より原告は机上に卓上用の空気清浄機を置き、その吹
 き出し口より出る空気を吸うようにした。呼吸困難、鼻、喉の激痛な
 どの肉体の苦しみに耐え兼ねたのである。空気清浄機はETSをすべ
 て除去しないが、上記症状を多少は緩和してくれた。狭い職場で空気
 清浄機を机上に置き、その吹き出しに向かうと極めて不自然な姿勢に
 なり、体に無理がかかる。しかし、ETSを直接吸い込む苦痛よりま
 しであった。
9 原告の求めに対し、被告が行った対策は平成7年下半期における窓
 への換気扇の設置のみであった。それどころか被告は原告に不利益処
 分を示唆するという有様であった。
10 秒速約2メ−トルで拡散するETSに対して、換気扇の排気能力
 は無に等しいものであった。原告は空間分煙の推進を被告に申し入れ
 続けたが、被告は急激な対応はできないとの回答を続け、状況が改善
 されることはなかった。
11 平成7年10月頃より、原告はETSを吸い込むことによる、呼
 吸困難、筋肉の緊張(特に胸・肩・首)がひどくなり、激しいせき込
 みが続いた。そして、咳をする度に首筋に痛みを感じるようになった。
 なお、このような症状は被告に雇用されるまではなかった。
12 このような状況の中で、原告は被告に対し、ETSの濃度の低い
 職場へ異動してでもかまわないので、原告の苦痛の改善に協力してほ
 しいと要望するが、特に明確な返答はなかった。
13 平成7年12月中旬頃より、原告の啖に血が混じるようになった。
 原告は受動喫煙による健康被害を憂慮し、大学病院の呼吸器科を受診
 した。(平成7年12月21日、1月11日)。診察の結果、受動喫
 煙下にあることを示す状況証拠が見つかった。そして、医師より診断
 書が発行され、それには被告に対し職場の喫煙規制をすべき意見が記
 載された。この時、原告は医療費として、5,870円を支出した。
14 上記診断書に対し、被告は、医者など患者の言いなりでありあて
 にならない、もし健康に支障があるならば分限処分の対象であると述
 べ、原告の喫煙対策の要求を圧殺した。原告は大変な精神的苦痛を受
 けた。
15 平成8年1月1日、原告は首の激痛で動けなくなった。同年1月
 4日、医師に頸部椎間板ヘルニアと診断される。約1年に亘る治療の
 後、症状は固定化した。右腕に巧緻性障害を残すこととなった。
  原告は上記疾患と江戸川区における受動喫煙との間には因果関係が
 あると考える。原告は障害の原因となるような外傷は受けたことがな
 く、原因として筋肉の慢性的緊張による椎間板の損傷以外、原因とな
 るものが見当たらないからである。それは、受動喫煙による椎間板へ
 の悪影響、多数回に亘る咳き込み、空気清浄機の方を向いて、呼吸困
 難に耐えるため、不自然な姿勢をとらざるをえなかったことを主要な
 原因とするものである。
  原告は、都市開発部に所属してから、肩首の凝りが尋常でなくなっ
 た。このこともその証左と言える。
16 上記疾患に罹患して以降、原告に対する受動喫煙の影響は患部の
 疼痛の悪化にも現れることとなった。出勤してETSに晒されると患
 部の疼痛がひどくなるのである。受動喫煙により、血流がの悪化し、
 疾患の疼痛が増大するのは周知の事実であり、原告は受動喫煙により、
 無用の疼痛に苦しめられたのである。
17 13に関わる医療費、14、15、16に関わる原告の肉体的・
 精神的苦痛は、すべて被告が喫煙対策を適切に行わなかったことによ
 るものである。原告は14、15、16に関わる苦痛による損害は3
 0万円を下らないものと考え、13の医療費とともに被告に請求する。


  証拠方法

口頭弁論において提出する。


  紛争の経緯

 原告は平成7年4月1日、江戸川区に入区、都市開発部再開発課再開
発第一係に配属された。入区前の特別区人事委員会の説明では、今は、
大抵の職場では、禁煙は難しくとも、分煙という方向で措置を行ってお
り、この流れが、逆転することはないとの説明を受けていた。
 ところが、上記職場は、1日最低2箱は吸うような、ヘビースモーカ
ーがとても多く、しかも、狭隘な換気設備も不十分なところであった。
窓を閉めると、霞が生じるようなひどさであった。
 配属当日、係長にのどが弱く、配慮が欲しいとの話をしたところ、換
気扇の方に向けて煙を吸うように、喫煙者に指示した。しかし、実効性
はなかった。
 配属後、受動喫煙の影響で、目の痛み、喉の痛み、胸の痛み、頭痛で、
夜、4時頃まで寝付けないほどの苦痛が生じた。
 5月上旬、職員課の係長をたずね、喫煙の問題につき相談する。分煙
については、方向性として確認できているが、時間がかかるとの返事で
あった。
 5月に、喉の痛みで、医師の診察を受けたところ、喉の腫れが認めら
れ、副鼻くう炎、咽頭炎の診断を受けた。そこで、先輩に喫煙の問題に
つき相談した。しかし残念ながら、極めて難しいとの返答しかえられな
かった。しかし、先輩自身は、喫煙を遠慮してくれた。
 6月、身体上の苦痛に耐え兼ねた原告は、日本国憲法16条に基づき、
区議会に請願(陳情)を行った。米国においては地方議会が喫煙の規制
の先鞭をつけたことから、平穏に請願しようと考えた。
 しかし、なぜか、原告が、陳情を出した事が発覚し、申立人は、上司
(課長)より陳情の取り下げを迫られた。日本国憲法16条違反である。
その旨、上司に伝えると、公務員には、憲法が適用されないとの誤った
見解を述べ、条件付き採用期間中の身であり、不利益処分が課されうる
ことを述べた。同時に、申立人の身体上の苦痛については理解し、対策
を講じるとの約束をしてくれた。また、陳情の目的は達成されたはずで
あり、これ以上、問題を拡大する必要は乏しいのではないかと述べた。
申立人は、議会での条例化を求めたいとの考えがあったが、上司は、そ
れは組織のなかでできると述べた。いずれにせよ、上司が、喫煙対策を
講じるとの約束をしてくれ、また、不利益も示唆されていたので、不本
意ではあるが陳情を取り下げることにした。
 この時、偶然に区議会で区役所を禁煙にすべきであると質問が出され
ている。しかし、これに対する区長の答弁は玉虫色のものであった。
 その後取られた対策は、執務室内に換気扇を設置し、その近辺で喫煙
をするというものであった。原告は執務室外に喫煙場所を設置してほし
いと、上司に要請したが、上司は、喫煙者の権利保護を理由に、無理だ
と述べた。換気扇設置を設置しても、排気能力には限界があり、秒速2
m以上で拡散する煙草の煙の排出には、不十分である。しかも、この最
低限のルールを守らない職員も多くおり、環境改善には至らなかった。
この点につき、都市開発部長にも相談したが、急激な改革はできないと
の返答であった。
 その後、喫煙対策につき、庁内の意見を、集めようと考え、書面を作
成し、職員課に相談した。返答は、申立人に非難が集中する危険がある、
区長方針として原則禁煙の方向が示されているので、もう少し待ってほ
しいとのことであった。
 11月の安全衛生委員会開催にあたり、申立人は、要望書を作成した。
提出しようと上司に相談したところ、都市開発部長から、「この要望に
よって庁内が禁煙になったら、君のせいだ。また、このような文書を出
すことによる不利益は覚悟するように。」との説得を受けた。しかし、
申立人は提出した。
 11月の安全衛生委員会においては、申立人の要望は聞き入れられな
かった。
 1月4日に頸椎のヘルニアの診断を受ける。その後、頸部をかばいな
がら勤務を続ける原告に対し、周囲の職員から、「体の調子が悪い、悪
いと言っていたけど、本当におかしくなりやがった、こんなに体が弱い
のならクビだな。」などと揶揄された。
 1月12日、医師の喫煙対策の必要性を述べた診断書を上司に示し相
談したところ、「医師は患者のいいなりであり、あてにならない。また、
これを職員課にでも提出すれば、分限の対象である。」と返答された。
 平成8年4月1日、要求者は江戸川保健所予防課業務係に異動した。
しかし、江戸川保健所も禁煙ではなく、換気扇が設置されているのみで
あった。原告にとっては健康を害する状態であった。
 係内では煙の流れて来にくい場所に座席を指定してもらうなどの配慮
が行われた。また、保健所長(産業医)より、現在の対応は不十分であ
るが、喫煙対策を前向きに行いたいとの話があった。要求者も一職員で
あり、もめごとを起こしたくないのは、人一倍であるので、しばらく我
慢をしてみることにした。しかし、苦しいのは何も変わらなかった。
 その後、換気扇のそばでなく職場内のテーブルで喫煙する職員に対し、
せめて、換気扇の側で喫煙してほしいとのお願いをしたことがあった。
しかし、お客さんがいるときは喫煙してもかまわないことになっている
との返答であった。要求者は納得しかねたが、相手は要求者よりもずっ
と年配の職員であり、また職種も異なり、強く主張すれば、紛争を起こ
しかねないので、それ以上は何も言えなかった。
 保健所内では自席で喫煙をする職員もやはりいた。江戸川区において
要求者がたばこにうるさいのは周知の事実となってしまい、このことを
揶揄されるたこともしばしばであった。当然、喫煙をする職員にとって
は煙たい存在であり、個人的に喫煙者に対し自覚を促すのは、直接的な
紛争を生じ、事態を悪化させてしまい、極めて困難であった。労働省の
喫煙に関するガイドラインでは、管理者が喫煙対策に積極的に取り組む
べきと定められているが、要求者は管理者から、喫煙につき注意がされ
るのを1度も見たことがない。
 平成8年5月、要求者は世界禁煙デーにちなみ、MXテレビから、取
材を受けた。MXテレビ側は、要求者が勤務しているところを撮影した
いと言ってきたので、要求者は一応所長の許可を請うた。所長は、「要
するにやるべきことをやっとらんわけですよ。」と答え、許可はもらえ
なかった。
 その後、平成8年6月から平成9年の6月頃まで、喫煙に関する研究
論文が発表されるなどの折に触れ、保健所長に対し、対策を求めた。し
かし、返答は、「禁煙は抵抗が大きくてできない(具体的に誰の抵抗な
のかは明らかにされなかった)。完全分煙は予算がなくてできない。」
とのことであった。要求者はせめてパーテーションによる区画の分離と
その他の場所の禁煙を求めた。所長の返答は、「牢屋みたいなところで
喫煙するのはいやだとの声が多いんですよ。」とのことで、それもでき
ないとのことであった。そして、あまり厳しくやると人間関係が悪くな
るのでこれ以上の対応は難しいとの総括があった。また、あまり、この
ような保守的な街で強く主張すると、不利益になりかねないのではない
かとも忠告された。要求者は非喫煙者の健康は無視するのか問うたとこ
ろ、君も実は今はそんなに煙いとは思っていないのだろう、と言われた。
原告は同じ合同庁舎の中の、東京都庁の使用する部分はきちんと分煙に
なっているのに、江戸川区の部分がなっていないのは納得できない、と
主張した。このような話し合いは幾度となく繰り返されたが、結論はい
つも同じであった。
 更に、平成9年2月頃、要求者はトイレの中で灰皿代わりに使用され
ている空き缶をすべて撤去した。その後、庶務係長より話があり、トイ
レの禁煙化は検討しなくてはならないが、トイレで喫煙されると、灰が
まき散らかされ、掃除のときに困るので現状のままにしてほしい旨伝え
られた。東京都のフロアのトイレには灰皿はないのでおかしいとは思っ
たが、原告はとりあえず了承した。
 また、平成9年3月、東京都分煙化ガイドライン検討報告を所長に見
せ、対策を請うた。所長は、東京都の方針はいずれ区に波及するだろう
し、世の中が良い方向に動いているのだから、あまり波風を立てないほ
うがよい、まとまる話もまとまらなくなるとの返答であった。
 保健所の事務室内はやはり閉鎖された空間であり、煙は事務室のなか
を拡散する。特に、要求者の頸堆のヘルニアは、煙を吸うと痛み始め、
右腕にもしびれ感が生じる。その痛みは、モルヒネ欲しさに病院へ強盗
に入った患者がでるほどのものなのである。目、鼻、喉の痛み、息苦し
さも当然生じる。煙を吸い込むと発生する頭痛、肩等の筋肉の異常な緊
張、それによる慢性的な不眠、歯茎の痛み等々、要求者はつらい毎日を
送っていた。
 そこで、要求者は平成9年6月、保健所長にこのままなんらの進展が
見込まれないなら地方公務員法に基ずく措置要求等の手段をとりたい旨
伝えた。所長は、そのようなことをすれば、職員の恨みを買い、昇進に
影響が生じかねないと言われた。要求者はそのようなことは法に反する
し、とにかく苦しいので今後は話し合い以外の方法を検討したい旨申し
伝えた。また、もしや、所長がいる間はもめごとを起こさないでくれと
いうことなのですかと問うたところ、所長は、そんなことはないと答え、
了承した模様であった。
 所長の言う不利益が事実であるとすれば法に反する事であるが、事実
上は予想されうることであり、他の自治体では実際、生じていることで
ある。また、職員の反感を買うことも予想された。もちろん、そのよう
なことは当然要求者も望んでいなかった。しかし、受働喫煙の有害性が
国連を初めとする、世界の権威ある機関に認定されているのが社会情勢
であった。米国においてはタバコが大統領命令により麻薬と認定され、
FBIがタバコ会社の役員を殺人罪で起訴するため捜査を開始していた。
更に、世界各国で受働喫煙の被害が認定され、損害賠償が認められてい
た。リゲットグループのたばこPL訴訟における和解、米国州政府の医
療費の増大分のタバコ会社に対する請求の認容判決も出ていた。このよ
うな中で、要求者の職場は、人権を尊重すべき立場にある公共機関であ
るにもかかわらず、喫煙に対しては、消極的な対応しかされていなかっ
たのであった。
 上述のMXテレビの取材で、「河村さんの前の職場見ましたよ、すご
いですね、あんなんで分煙と言っているなんて、江戸川区って不誠実だ
と思いませんか。」と質問され、返答に困ってしまったのを考え、(こ
の部分は放映されていない)。このような状況ではたとえ誹謗中傷され
ようとも声をあげるほかないと考えた。
 要求者は子供の時より江戸川区に在住していた。子供の頃より、江戸
川区は他区に比べて素晴らしいと教わって来た。しかし、住民票をとり
にいけば、ロビーは煙にあふれ、区民施設も同様の状態である。国民の
医療費が鰻登りである状況で、江戸川区は喫煙の街となっている。区民
として、かえすがえすも残念でならなかった。
 このような状況を踏まえ、平成10年3月26日、原告は特別区人事
委員会に職場の禁煙化を求め、措置要求書を提出した。これ以降、被告
との交渉は措置要求の審理のなかで行われている。
 平成10年12月に被告に請求の趣旨に関わる損害賠償請求の意思表
示をしたが、被告からは特に回答はなく、本訴に及んだ。


 平成11年6月16日


                   原告    河村 昌弘 印

                 TEL&FAX  03-123-4567


東京地方裁判所御中





原告の休日は月曜日であり、憲法32条実質化の見地から、可能ならば、
月曜開廷の部に配転されることを希望します。第一回期日は、8月下旬
を希望します。

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 請求の趣旨とは裁判所に対して求める判決のことです。金銭請求では、「被告は原告に対し金○○円を支払え」などとなります。ちなみに行政訴訟では、「被告が○○年○○月○○日にした○○の処分を取消す」などとなります。
 訴訟費用について判決は、申立がなくても裁判所が判決することになっていますので、記載しなくても良いのですが、通常は請求の趣旨に書くようです。
 通常は法定利息(法律上は損害の請求をした日から損害の賠償を受けるまでの利息を請求できることとなっている)を請求して、 被告は原告に対し金○○円及び本状送達の日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え」などと請求するのが通常ですが本訴状では請求していません。
 金銭賠償では仮執行の宣言を求めることも多いですが本訴状では申立をしていません。仮執行の宣言とは、第一審で原告が勝訴して、被告が控訴した場合でも、仮に損害の賠償をしてもらう宣言です。

 次に請求の原因ですが、これは請求の趣旨を特定する事実のことです。金○○円を支払えと言っても、一体何を原因とするのはわかりません。借金を返せということなのか、交通事故の損害か、要するに判決をどういう理由で求めるのかを書くと考えていて良いでしょう。本訴状では被告がたばこ対策をしなかったことにより、原告が病気になり、大学病院で払った診察料と、身体的苦痛を受けた慰謝料を請求していることが示されています。
 通常、請求をするには法律上の原因があるはずですから、どういう法律に基づいて請求をするのか法律構成を書くのが通例です。例えば民法709条に基づいて請求をするのであって、民法709条にはこれこれのことが書いてあってその要件にあてはまるなどと書くことが多いです。ただ、嫌煙訴訟のすすめのところにも書きましたように、法律は裁判官が知っているので書かなくても良いのが日本の法の建前です。本訴状では法律構成は特に書いてありません。これでも裁判所で問題なく受理されます。
 証拠方法はいわゆる証拠のことです。ただ、法律上証拠というのは一般の意味と違います。証拠から示されることとが証拠です。例えば借金の証文などがあったとしても、その証文は証拠ではありません。証文に書いてある内容が証拠なのです。証文そのものは証拠方法と呼ばれます。証拠方法は文書であれば書証、証人であれば人証などと呼ばれます。証人尋問では証人は証拠方法で、証言した内容が証拠となります。
 訴状に最初から証拠をつけても良いですし、本訴状のように後で提出するでもかまいません。口頭弁論とは裁判所に行ってやる手続のことです。法廷で見るいわゆる裁判のことです。
 紛争の経緯は、事件をわかりやすくするために任意に書いたものです。請求の原因は金銭の賠償を求める原因を書くところですので、それとは別に裁判官に事件のイメージを持ってもらうために書いてあるものです。書かなくてはならないものではありません。裁判に付随する事項で裁判官の耳に入れて置きたいことはこのように分けて書いておくと良いでしょう。
 最後に自分の名前を書いて押印します。なお契印はページ番号がふってあれば必要ないとのことです。
 FAXで裁判所とやりとりすることも多いのでFAXの番号は書いておきましょう。なお、電子メールでのやりとりは認められていません。
 期日の希望などを書いておくと聞いてもらえることが多いです。裁判官もサラリーマンですので、仕事の都合などは考慮してくれることが多いです。(なお、法律上は裁判所へ行く時は使用者は休暇を許可しなくてはならないので、裁判所は期日を決めるにあたって、仕事の都合は考慮しなくても良いことになっています。ただ、期日を決めるにあたっては、仕事の都合などを考慮してくれることが多いようです。ただ、一度決まった期日は仕事の都合が悪くなってもなかなか変更はしてもらえません。被告も都合が悪くなったような時は変更して貰えることもあります。)


5 期日の決定
 訴状を提出して、だいたい1ヶ月くらいで裁判所から期日の通知が来ます。第1回の口頭弁論をいつ何時に開くかという通知です。
 これは裁判所によります。東京地裁では裁判所の書記官から電話で連絡があることもありますし、FAXで通知が来ることもあります。通常はいきなりでなく、都合の悪い日はいつかとか、次の中で都合の良い日はいつかなどという問い合わせとして連絡があります。
 ただ、裁判所によってはいきなり特別送達(書留の裁判所用特別版みたいなもの)で期日の通知が来ることもあります。こういう場合は都合のつかない場合は、裁判所に期日の変更の申立をすることとなります。

期 日 変 更 申 立 書

原告  河村昌弘
被告  江戸川区


上記当事者間の御庁平成11年(ワ)第13320号損害賠償請求事件について、先に指定された平成14年6月24日午前10時の口頭弁論期日は、下記理由により変更されたく申請する。

 6月24日は原告が担当する、午後1時より開始する言語リハビリ教室がある。 当日の弁論の状況によっては、事前準備を含めた公務に間に合わなくなるおそれ があるため

疎明資料
 リハビリ教室日程表


平成14年4月30日
上記原告  河村昌弘

東京地方裁判所民事第6部合議係 御中

(希望日)6月24日午後4時以降(被告にも打診済み)
(差し支え日)7月1日、8日、29日、8月5日(月曜日の場合)


 上記例では被告に問い合わせた上で期日を変更しています。期日は裁判所が職権で(裁判所の一存で)決めうることですので、相手方の同意が必要となります。事前に被告とすりあわせておいた方が良いでしょう。

 また、電話などで期日が決まった場合は、後で裁判所から特別送達で期日の通知が来ます。ただ、特別送達の費用は千円以上するので、以下に示すように請書を裁判所に提出することで、送達の代わりにすることができますので、書記官にその旨を伝えるのもいいでしょう。

           第一回口頭弁論期日請書


 当事者
                  原告      河村 昌弘
                  被告      江戸川区

 事件番号
                 平成11年(ワ)13320号


  平成11年6月22日
                 上記原告     河村 昌弘
東京地方裁判所民事第6部合議係御中


  第一回口頭弁論期日につき、御庁より、平成11年8月30日午前
 10時第721号法廷と御指定がありましたが、原告はこれをお請け
 致します。
                              以上

6 被告からの答弁書の送達
 通常、第1回目の期日までに被告から答弁書という書類が郵送されてきます。

  平成11年(ワ)第13320号 損害賠償請求事件
                             原告 河村昌弘
                             被告 江戸川区
    平成11年8月2日
    〒102−0073
        東京都千代田区九段北1丁目1号4番
          特別区人事・厚生事務組合法務部(送達場所)
                    電話03(5210−9870
                    FAX(03)5210−9711
                       右被告指定代理人  喫煙太郎
                       同            喫煙次郎
                       同            喫煙三郎
                       同            喫煙四郎
    東京地方裁判所民事第六部合議係 御中

                    答弁書 

第一 請求の趣旨に対する答弁
    原告の請求を棄却する
    訴訟費用は原告の負担とする
  との判決を求める
第二 請求の原因に対する答弁
 

一 請求原因第1項の事実は認める。
 二 同第2項の事実は認める。 
 三 同第3項の事実は否認する。
 四 同第4項の事実農地、都市開発部が閉鎖された室内にあることは否認する。
    その余の事実は認める。
 五 同第5項の事実は否認する。
 六 同第6項の事実は否認する。
     ただし、平成7年5月頃、原告は、江戸川区安全衛生委員会の事務局を所管している総務部職員課福利係及び再開発課長に対し、喫煙対策について相談に来たことがある。
 七 同第7項の事実は不知。
 八 同第8項の事実は認める。
 九 同第9項の事実のうち、原告が机上に卓上用の空気清浄機を置いていたことは認める。
   原告が空気清浄機の吹き出し口に向かって極めて不自然な姿勢で勤務していたことは否認する。
    その余の事実は不知。
 一〇 同第10項の事実は否認する。
 一一 同第11項の事実は不知。
 一二 同第12項の事実は否認する。ただし、平成七年一〇年一〇月中旬頃行われた職員の異動希望調書の作成時において、原告が他の職場への異動を希望したことがある。
 一三 同第13項の事実は不知。
 一四 同第14項の事実のうち、原告が大変な精神的苦痛を受けたことは不知。
 一五 同第15項の事実は不知。
   主張は争う。
 一六 同第16項の事実は不知。
   主張は争う。
 一七 同第17項の主張は争う。


第三 紛争の経緯についての認否
 

一 「原告は」から「説明を受けていた。」までの事実のうち、原告が平成七年四月一日、江戸川区に入くし、都市開発部再開発課再開発第一係に配属されたことは認める。
    その余の事実は不知。
 二 「ところが、」から「ひどさであった。」までの事実は否認する。
 (略)


第四 被告の主張
 一 事実の経緯
 

 1 被告の江戸川保健所においては、乳幼児や妊産婦、あるいは病弱者等が多数来所するという当該施設自体の性質上、昭和61年頃から、同所内の喫煙対策の必要性が認識され、管理職を中心として、同所内における分煙対策が実施されてきた。
 すなわち、被告は、阻害東京都が所有する江戸川区中央四丁目二四番一九号所在の鉄筋コンクリート五階建庁舎の一・二階を借受け、ここに江戸川保健所を設置しているが、その一階部分については、全面的に禁煙とし、二階部分については、トイレと会議室は禁煙、その余りの部分は分煙とし、この旨を所内に掲示するなどして、禁煙と分煙の対策の徹底化を図ってきた。
 2 平成七年四月一日、原告は、被告に採用され、都市開発部再開発課(以下「再開発課」という。)再開発第一係に配属されたが、当時の都市開発部における原告と他の職員の机の配置、及び換気扇と空気清浄機の設置の状況は、乙第一号証、及び第二号証のとおりである。
 3 (省略)
 4 同年五月上旬、原告は、再開発課長櫻田孝〔現在は、都市開発部長(以下「櫻田課長」という。〕に対し、再開発課のある江戸川区庁舎の北棟庁舎(再開発課は、同調者の一階に所在)全体を禁煙にし、職員らが喫煙する場合には、北棟庁舎の屋外で喫煙するようにしてほしい旨の要求をした。
     櫻田課長は原告の右要求に対し、江戸川区庁舎内においては、現在、分煙が行われつつあり、北棟庁舎を全面的に禁煙とすることは、同庁舎内で勤務している、喫煙する職員、及び喫煙しない職員全体に関わることであるから、現段階で直ちにこれを実施することは困難である旨、述べた。
 (以下略)

 
 二 主張

  1 前記一、事実の経過2において述べたとおり、平成七年四月一日、原告は、被告に採用され、再開発課に配属されたが、当時の都市開発部における原告と他の職員の机の配置は、乙第一号証のとおりであり、また、都市開発部における執務室の換気扇は合計三機、空気清浄機は合計三機設置されており、その設置の位置は乙第二号証のとおりであった。
   都市開発部は、その北側、西側及び南側が窓となっており、その床面積は、三七一・七平方メートル、職員数八八人(そのうち喫煙する者は三七人)であり、これに対し、換気扇は合計三機、空気清浄機は合計三機設置されていたから、執務室内の空気や粉塵等についての換気は、十分であったのである。
   したがって、都市開発部の存する執務室内において、煙草の煙が常時充満していることはなかったのである。
     (以下略)  

                

                     

 答弁書とは訴状に対する被告の回答です。なるほど原告の言うとおりである私が間違っていたとかなれば、訴訟はそこで終わります。これを請求の認諾(請求とは訴状の請求の趣旨というところに書いてあることのことです。)と言いますが、裁判になるからには普通そんな答弁書は来ません。被告は争って来ることになります。
 第一 請求の趣旨に対する答弁で被告は、
    原告の請求を棄却する
    訴訟費用は原告の負担とする
と書いていますが、これは被告の求める判決のことです。棄却とは原告の請求が理由がないとする判決のことです。
 さらに通常、訴状の請求の原因に書いてある事実について認否、認めるか認めないかを答えてきます。それが、 第二 請求の原因に対する答弁です。
認める、否認する、争う、不知という言葉が通常使われます。認める、否認するはわかるでしょう。争そうとは、こっちにも言い分があるんだぞということです。あんたの言っていることは100%正しいわけでも、100%間違っているわけでもないが、こっちの言うことも聞いて判断してくれということです。不知とは知らないということで、知らないんだから、否定も肯定もできないということです。この場合は、法律上は争そうのだとみなされます。
 認めるとされたことは裁判で問題にしても仕方がないので、その事実はあるとみなされます。例えば、このケースで江戸川区の職員であるることは被告も認めています。とすればそのことは裁判では以後問題としません。仮に河村が江戸川区の職員でなく、厚生労働省の職員で江戸川区に出向していたというのが真実であっても、裁判上は河村は江戸川区の職員と扱われます。民事訴訟では本当の真実がなんであったかは問題としないのです。お互いが認めていればそういう事実はあったものとされてしまいます。刑事事件と違って、本当の真実を明らかにするのが民事訴訟の目的ではなく、原告と被告の争いを仲裁するのが目的だからです。とすれば、お互い認めていることまで詮索する必要がないからです。 
 だから答弁書で重要なのは認めるという部分であって、そこは今後裁判で問題にされることはありあません。それ以外の否認する、争う、不知はすべて今後の裁判で証明していかなくてはなりません。
 さらにこの答弁書では、被告は 第三 紛争の経緯についての認否やその他の主張をしてきています。
 裁判で必要なのはどういう判決を求めるかという請求の趣旨とその法律上の理由である請求の原因であって、それ以外のことは裁判をわかりやすくする事実に過ぎません。例えば、相手が借金を返さないと言うようなときは、被告は金○○円を支払え が請求の趣旨であって、被告が原告から金を借りたこと、それをまだ返していないことが請求の原因です。それ以外の、被告はふてぶてしい野郎だとかそう言う事実は裁判ではどうでもいい、裁判をわかりやすくする事実ということになります。
 この訴状で書いてある紛争の経緯とはそういう裁判をわかりやすくする事実であるわけですが、実際問題、どこまでが、裁判に法律上の理由であって、どこからがそうでない事実かは、借金の事件などと違いこの裁判ではいま一つわかりにくいものです。そこで、被告も 紛争の経緯についても詳しく回答してきていますし、さらに被告も事実の経緯を主張してきています。さらに被告が争うと言ったようなことに対し、二 主張でいろいろ述べてきています。
 裁判はこういうふうにいろいろな事実が交錯しながら進んでゆきます。紛争というのはいろいろなことがからんで出来ていますので、法律的にすかっと割り切れることは少ないものです。これを整理してゆくのが裁判所の役目なのですが、裁判官は世間知らずが多いので、当事者としては歯がゆい思いをすることもあります。お互いが問題としていることと全く関係のないことについて判断されてると感じることもあります。評判の良い裁判官というのはこういう整理が上手です。裁判で問題となっているのは、法律の条文に何が書いてあるかではなく、トラブルの原因が何かです。いわゆる司法試験でパズルのような問題として出ることは実社会ではほとんど問題になることはありません。残念ながら良い裁判官に出会えることはまれです。東京地裁でも評判の良い人というのは数えるほどしかいません。そこら辺の人生経験豊富なおやじさんの方が良くわかっているということは往々にして経験します。裁判官は気楽に赤提灯にもいけない人達なので、仕方のないことかもしれませんが、自覚している人は極めて少ないといえます。
 けんかの仲裁をしたことがある人はわかると思いますが、けんかが進展すると最初のけんかの原因がどっかに行って二人ともわけがわからなくなっていることもあります。仲裁者が無理矢理割って入っても、喧嘩が拡大するだけでしょう。そこで、お互いの言いたいことを言わして、おたがいの喧嘩の原因をあぶりだして、手打ちにさせるということになるでしょう。こういう時にお互いがもめてていないことを仲裁者が問題にしても意味のないことです。言いたいことを遮ってもいけませんし、片方ばかりに言わせてもいけません。お互い言いたいことを言わしたら、自然と解決することもあります。仲裁者の人生経験も大きく影響します。
 要するに、裁判と言えどもけんかですので、その本質は同じものであり、とりたてて特殊なものではないということになるでしょう。それが形式張って行われると言うことです。
 

7 第1回口頭弁論期日 

  口頭弁論の当日は裁判所の指定された法廷に時間までに行くことになります。服装については法律上の決めごとはありませんが、裁判官もスーツ、ネクタイですので相応の格好をしてゆくべきでしょう。なお、傍聴に関しては服装はなんでもいいと思います。
  開廷の10分前くらいに法廷の鍵が開けられ中に入ることが出来ます。
  当日法廷に行くと、法廷の入り口付近に当事者出頭カードがあります。そこに署名することになっています。裁判所への出席簿みたいなものです。 
  裁判官3人による審理ですと、裁判官席の真ん中に裁判長が座り、その左右に裁判官が座ることになります。向かって右側を左陪席裁判官、左側を右陪席裁判官と言います。この右左は裁判官から見てのものですので、原告被告からみたら逆になります。裁判官席の下の低いテーブルに座るのが裁判所書記官、あと、法廷には裁判所事務官がいます。裁判所事務官は法服(黒い服)を着ていません。
 時間になると裁判官がやって来ます。すると、「起立」と号令がかけられますので、全員起立します。裁判官が着席すると全員着席します。「着席」の号令はかけられません。
 ここで、裁判所事務官が事件の呼び上げをします。例えばこうです。
 「平成11年ワ一万三千三百二十号事件、河村さんと江戸川区の事件です。」。
 ここから審理が開始します。
 以下、一例を記載します。
 裁判長「おっほん、原告から訴状が提出されておりますが、よろしいですか。」
 原告起立
 原告  「はい。」
 裁判長「では、これを陳述。被告からは詳細な答弁書と乙第1号証から第10号証まで提出されていると言うことでよろしいですかな。」
 被告起立
 被告  「はい。」
 裁判長「では、答弁書陳述。えー、原告は国賠でいいですね。」
 原告  「いいえ。」
 裁判長「じゃあ、何なの。」
 原告  「本件について原告は原告と被告との雇用関係は私法契約によるもの、もしくは私法によって律されるものと第一次的に考え、安全配慮義務違反を主張します。国家賠償は2次的な構成と考えておりますが。」
 裁判長「はあ、国賠じゃないの。どういうこと。」
 原告  「ですから、原告と被告との関係は債権、債務の私法によって律されるとかんがえますので、」
 裁判長「国賠ということでこっちは対応しているんだけれども。あなたはどう考えんの。」
 原告  「ですから、債務の付随的義務違反として安全配慮義務違反を主張するわけです。」
 裁判長 「・・・・・。じゃあ、次回までにまとめてきて、で、次回は、○月○日でどうですか。」
 被告  「お受けします。」
 原告  「ちょっとまってください。1週間後ではいくらんなんでも書面をまとめられません。私は日中は仕事がありますので」 
 裁判長「じゃあ、○月○日ではどうですか。」
 原告  「ちょっとまてください。その日では準備が。」
 裁判長「○月○日も空いているよ。」
 被告笑みを浮かべる。 
 原告  「被告の答弁書を受け取って、子細に反論するには少し時間が必要です。」
 裁判長「ふーん、原告は時間をかけてきちんと反論したいってことね、じゃあ○月○日○時にするから。その日で。被告はいいですか。」
 被告  「結構です。」
 裁判長「では閉廷。」 
 原告  「ちょっとまってください。被告に確認したいのですが。」
 裁判長不機嫌になる。
 裁判長「何ですか。」
 原告  「被告は答弁書の3ページの4で都市開発部が閉鎖された室内というのを否認していますが、都市開発部は室内にあるのであり、この否認の趣旨がわかりかねるので・・・・・。」
 裁判長遮る。
 裁判長「次回書面で出して。」
 原告  「しかし、被告の趣旨を確認しておけば、原告の次回の反論はそれに応じたものになり、」
 裁判長激怒!右陪席裁判官、左陪席裁判官ニヤニヤしている。
 裁判長「だから、次回で書面で出してって言っているんだよ!あなたの今言っていることを書面にまとめればいいんだよ。」
 原告  「・・・・・。」
 裁判長「これで閉廷でいいですね。次回は10分の予定でしたが、本人訴訟だから、時間がかかるから、10分じゃおわらないな。次の事件を入れないで20分とりましょう。」 
 裁判官3人立ち上がり、退出。被告ニコニコして退席。裁判所書記官、事務官気まずそうな顔をしている。

 以上のやりとりは実際にあったものです。このやりとりを見てどう思われるでしょうか。裁判官がこんな対応をするのかと思われる向きが多いのではないでしょうか。
 多くの人は裁判所に多大な期待を抱いていると思います。裁判所へ行くのは一生の一大事という人が多いでしょうし、裁判所に行けば、優秀な裁判官がいてきちんと話を聞いてくれると思っている人が多いのではないでしょう。
 しかし、そもそも、裁判官がどうやって採用されているのかを知っている人がどれだけいるでしょう。現在の最高裁判所の長官が誰だか言える人がどれだけいるでしょうか。多くの人は裁判所というものに関心を持ってすらいないのではないでしょうか。こんなふうに、裁判所は国民の目があまり届いていない機関で、独善的であっても不思議はないのです。
 裁判官は司法試験に受かった人がなりますが、その試験というのはパズルのような試験です。米国などの司法試験と異なり、採点基準も不明確なのです。こういう試験に合格した人が、世の中に生起するもめ事を解決するきちんとした能力を持っている保障はどこにもないのです。そして、自分は偉いと人を見下している人が多いのも事実です。そして、人とのコミュニケーション能力も磨く機会もなく、裁判所に就職し、大きな権力を手にしています。新しくやってきた事件に対して、また下々の者からお上の手を煩わせるもめごとが持ち込まれた、しかたないひかえおろうというような態度で事件に臨む、そう言うものです。市役所やらの窓口も似たようなものですが、こちらは最近は市民の目が厳しいし、うるさい人もたくさんいますので、こなれています。裁判所は出入りするのが概ね法律関係者ばかりですし、裁判官もエリート意識のかたまりですから、あまり、対応はよろしくありません。
 もう少し、ましな対応ができないのかねえというのは、どちらかというと普通の市井の感覚を持っている裁判所の書記官やら事務官の人達も感じていることのようです。裁判官というのは人に頭をさげる立場に立ったことのない人達ばかりですので、不遜な態度を下々の者に対してとっても当然という感じのことが多いです。
 実際、多くの人が裁判所に行って驚くのです。しかし、良く考えてみましょう。選挙で私たちが選んだ代表の集まる国会がどういう有様でしょうか。ヤジの飛ばしあい、怒号飛び散る国会、時には乱闘もあります。まじめに国の将来を憂えているのでしょうか。日本人が自分たちでやっている政治のレベルは決して高いとは言えません。こういう日本の中にある裁判所が国会に比べて、すごいところになるということは、民主主義が一応機能している日本の国ではありえないことです。裁判所も日本的な場なのです。日本の裁判所でアメリカの法廷ドラマのような白熱したことやなにやらが起こるはずがありません。裁判官にどういう人がなっているか関心すらあまりもたない日本の国です。その中にある裁判所の裁判官が、国会でヤジを飛ばしている国会議員よりも人格ができているということは、期待できないことなのです。良く考えれば当然です。
 多くの人は、何も考えずに、裁判所にすごい期待を抱いているにすぎないのです。こういうことは裁判所も自覚している向きがあって、裁判所の職員の中にも「人間がやるのだから司法にも限界はあるが、それをわかってくれない人が多い。」などと言う人もいるくらいです。
 ですが、ここで注意しなくてはならないことがあります。格言にも「巧言令色少なし仁。」というものがあります。態度が悪いから不公正だとは限らないということです。
 裁判官の中にも態度はあまり良くないが、仕事はきちんとやるし、公平に話しを聞いてくれる人もいますし、逆に愛想はいいが、いいかげんな仕事をする人もいます。良く言われるのですが、法廷でボーッとしているようでも、実に良く事件を把握している裁判もいるし、逆に法廷でうなずきながら話を聞いていても、事件についてきちんと把握していないいいかげんな裁判官もいるということです。人は見かけによらないのは、特に裁判所では多いようです。
 また、実際のところ、多くの裁判官は概ね公平であると考えていいと思います。日本の裁判官が収賄などをしたという話しを聞いたことはありません。裁判官の判断やらには不満の残ることも多いのですが、日本の国の中で、裁判所だけが突出して正義をふりかざすことも考えてみればありえないわけです。日本人がこんなていたらくだから、裁判所の判決もこんなもんだというのも納得できないこともないのです。裁判官をきちんと説得できないようなことは、そもそも日本の国の中では良きにつけ悪しきにつけ通らないことなのだと考えられなくもありません。ローマの法格言に「裁判官は法を創造しない、社会の中から法を発見するにすぎない。」と言うものもあります。
 また、連絡会のメンバーでこう言う者がいました。「良く考えなよ。逆の立場に立ってさ。裁判所の愛想が良かったらどうなると思う。次から次へ事件が押し寄せて来てにっちもさっちもいかなくなるよ。特に本人訴訟なんかには厳しくしとかなくちゃ大変でしょ。裁判所に行きたくないと思わせなきゃならないでしょ。」。
 裁判所も日本の中にあります。国会、行政と並ぶ日本の三権の一翼です。国会では、スキャンダルが起きて、議員が辞職したりもします。そういうのと比較すれば、ましな機関かもしれません。裁判所に過大な期待はできませんが、それほど悲観することもないと思われます。裁判はこういうことを自覚するところからがスタートです。

 第1回口頭弁論では裁判官から口調は良くないですが、次回書面で出すようにと具体的指示がありましたし、書面を作成する時間もくれました。それに従うということになります。

 ところで、上の裁判官とのやりとりの中で「これ(訴状)を陳述。」というのがありますが、これは何だかわかるでしょうか。実は民事訴訟法では、弁論は口頭で行わなければならないとしていて(民事訴訟法87条)、法律上は訴状も期日に口頭で読み上げなければならないのです。アメリカなどでは実際に法廷ドラマで見るように口頭で読み上げています。しかし、日本では、そんな時間はないということで、訴状などは、裁判長が「陳述。」と言って、書いてあることを読んだことにしてしまうのです。民事訴訟法が骨抜きになっているのです。日本の民事訴訟法はアメリカの法廷をモデルにしていて、実際建前は立派です。しかし、実際は、その通りにはやれず、あちこちが骨抜きになっています。これまもた日本的なことです。
 実際、期日に、裁判長に強く言えば、訴状を口頭で読み上げることも可能ですが、裁判所に嫌がられます。訴状は既に裁判官が読んでいるので、徒に裁判所に時間を浪費させずに、ここは郷に入っては郷に従えで良いのではないかと思います。
 そもそも裁判制度が日本の国に合うのかというのも考えてしまいます。例えば、アメリカ人のダフ屋の喧嘩をみたことがあります。二人が殴り合いを始め、結局、片方がもう一人を締め上げました。締め上げられた方は、わかった「○○ドルだ。」と言うと、締め上げている方は手を離し、お金の受け渡しが行われました。その後、何事もなかったかのように、二人ともまた、ダフ行為をまたそれぞれやっていました。なわばりでもめたようですが、決着が着くとあっけらかんとしたものでした。こういう国民気質なら裁判も迅速な一刀両断型で行われるかも知れません。しかし、日本人のようななあなあな国民性ならば。裁判も建前と本音の交錯する場になるのもやむをえないかもしれません。「陳述。」というような扱いもそういうことでしょう。これでは傍聴人からは一体何をやっているのかわかりません。口頭弁論というのは実際はその名前と違って、口頭で弁論などせずに書類のやりとりに終始します。口頭弁論もまさしく日本的なものなのです。

 

 8 第2回口頭弁論 



平成一一年(ワ)第一三三二〇号事件

                原告     河村 昌弘
                被告     江戸川区

   第一準備書面

 平成一一年一〇月二九日

東京地方裁判所民事第六部御中



第一  被告の請求の原因に対する答弁について
一 答弁三について
  乙一号証にあるように都市開発部には三七名の喫煙者がおり、その者達が
 常時喫煙していたのである。
  平成七年後半になって、乙第二号証にあるような換気扇が設置されたが、
 換気扇は家庭用の換気設備と大差ないものであり、これによるETSの排出
 は期待できない。そもそも、換気扇によるETSの排気は不可能なのである。
 これは、権威ある論文が証明している(甲第一号証)。
  また、空気清浄機が設置されていたとはいえ、その集塵率は五〇%程度で
 あり、やはり、これによるETSの除去は期待できない。更に、空気清浄機
 は一酸化炭素や、窒素酸化物などの喫煙によって生じるガスに対してはなん
 の効果もない。
  以上より、都市開発部にはETSが充満していたのである。
  また、この点については、区職員の証言を得る予定である。
  更に、ETSの有害性については、甲第一号証にもあるが、後日専門家の
 詳しい証言を得る予定である。
二 答弁四について
  被告は閉鎖された室内であることを否認している。都市開発部は室内にあ
 り、開放空間ではない。被告の答弁の趣旨が不明であるが、おそらく、都市
 開発部の換気が十分であったことを主張するものと思われる。
  しかし、換気が不十分なものであるのは原告が一で述べたとおりである。
三 答弁五について
  一で述べたとおり、多くの喫煙者がおり、換気も不十分な室内には、ET
 Sが充満しているのであり、その中で勤務すれば、受動喫煙下にあることは
 論を待たない。
四 答弁六について
  被告自身が、原告が福利係長と相談したことを認めているうえ、原告の区
 議会への陳情の提出、それに伴う、再開発課長とのトラブル、安全衛生委員
 会への申立等の事実を考えれば、請求原因事実六を否認する理由はないはず
 である。
五 答弁七について
  後日立証する予定である。
六 答弁九について
   原告の勤務の状態を目撃している区職員がいるので、後日証言を得る予
  定である。
   また、空気清浄機の集塵率が五〇%程度であるのは、既述のとおりであ
  る。被告が空気清浄機を設置しているなら、その能力についての知識もあ
  る筈であり、ないよりましな程度であることは知悉しているはずである。
七 答弁九(二つ目の答弁)について
   ETSは直径〇.〇一ミクロン程度の粒子であり、通常の空気清浄機で
  は捕捉できない。また、電気集塵方式の高性能とされているものでも、そ
  の集塵率は五〇%程度である。空気清浄機があったとしても喫煙対策がお
  こなわれていたということにはならない。
   また、不利益処分の示唆についてであるが、その時原告は、区職員に相
  談しており、その時の様子について後日証言を得る予定である。
八 答弁一〇について
   換気扇では不十分であることは、当時区議会で質問がなされている(甲
  第二号証)。また、原告の空間分煙の推進の申し入れについては、乙五号
  証を見れば明らかである。
   また、その後、なんらの対策も行われていないのであるから、状況はな
  んら改善されていないことになる。
九 答弁一一について
   ETSへの暴露によって、咳、呼吸困難が起こるのは医学的事実であり、
  これにより頸部等に疾患が生じうるのも、医学的事実である。
   この点については、被告の主張と関連することであり、それに対する原
  告の反論のなかで、一部立証する。また、後日、専門家の証言を得る予定
  である。
十 答弁一二について
   原告が異動を希望したのは禁煙職場であり、請求原因十二を裏付けるも
  のである。
十一 答弁一三について
   診断書(甲第三号証)、療養証明書(甲第四号証)を提出する。原告の
  主張を裏付けるものである。
十二 答弁一四について
   分限処分を示唆された時、原告は区職員に相談している。その時の様子
  について後日証言を得る予定である。また、このような不合理なことを示
  唆されれば、大変な精神的苦痛を受けるのは明らかである。
十三 答弁一五について
   甲第五号証、甲第六号証、甲第七号証、甲第八号証を提出する。被告の
  主張に関連することなので、関連箇所(第四 四)に譲る。
十四 答弁一六について
   甲第九号証を提出し、受動喫煙による血管の収縮、血中CO|Hb(酸
  素を運べないヘモグロビン)量の増加を証明する。患部の血流量の減少は
  疼痛を引き起こすのである。この点については、後日、専門家の証言をう
  る予定である。
十五 答弁一七について
   被告の主張に関連することなので、関連箇所に譲る(第六、ヘルニアと
  の関係  については第四 四)。
第二 紛争の経緯についての認否について
一 認否二について
   事情を知っている区職員より後日証言を得る予定である。
二 認否三について
   換気扇などではETSが排出できないのは、甲第一号証により、明らか
  である。また、職員は換気扇の方に向かって喫煙をすることはなかった。
三 認否四について
   咽頭炎で医師を受診している事実や、受動喫煙によって、目の刺激症状、
  咳、呼吸困難、頭痛などが起こるのは医学的になんら不思議でないこと等
  を考えれば、原告のような症状が生じていたことが裏付けられる。
四 認否六について
   医師の治療を受けたことについて、後日立証する予定である。
五 認否七について
   米国において地方議会が喫煙規制を行っているのは、今や顕著な事実で
  ある。
六 認否八について
   再開発課長より、陳情の取下げを迫られたときに、原告は、区職員に相
  談している。そのときの様子について、後日証言を得る予定である。
   また、新聞にもこの件は取り上げられている(甲第十号証)。
   また、区長の答弁がはっきりしないのは、乙第三号証を見ればあきらか
  であるうえ、その後、喫煙対策がきちんと行われていないのは、区議会の
  本会議で、更に二度(合計三回)も喫煙に関する質問が出されていること
  よりも伺われる。また、委員会でも、複数の議員からこの件につき、質問
  がされている事実もある。
七 認否一〇について
   最低限のルールとは、換気扇のそばで喫煙をするということである。し
  かし、現実には多くの職員が自席で紫煙をくゆらせていたのである。この
  点については、区職員より証言を得る予定である。煙の排出が不十分であ
  るのは、甲第一号証より明らかである。
八 認否一一について
   被告が否認しているが、これは、職員課係長が原告を説き伏せたのでは
  なく、原告の立場を心配して発言したものである。
八 認否一二について
   原告は安全衛生委員会に提出する意向で、その主催者である総務部長宛
  てに要望書を提出したのである。
九 認否一三について
   被告は後日、甲第十号証にあるように、全くの正当な主張に対し、「職
  場の人間関係を崩し、本人が働きにくくなることを心配した。」などとの
  発言をしていることより考えれば、経験則に照らし、このようなことはあ
  りうることである。
十 認否一四について
   第一 十二のごとく立証する予定である。
十一 認否一五について
   換気が不十分なのは甲第一号証をみれば明らかである。そして、換気が
  不十分で受動喫煙を余儀なくされれば、苦しいのは当然である。
十二 認否一七について
   自席で喫煙する職員の写真について、原告はプライバシーを考え撮影等
  の証拠保全は行っていない。しかし、会議室で喫煙をしていた様子を示す
  ものとして、会議室の灰皿の写真、また、区役所内における喫煙の様子の
  証言、原告のメモなどがあり、間接証拠として後日、申請する予定である。
   また、現在も自席で喫煙する職員がいるのであり、このことも、原告の
  主張を推認させるものである。
十三 認否一九について
   MXテレビは、庁舎内を撮影し、かつ職員にインタビューをしている。
  また、放送後ビデオを区役所宛てに送付している。ちなみにそのビデオは
  保健所長が所持していた。不知とは理解に苦しむ。
十四 認否二〇について
   東京都の部分が禁煙になっていたことについては、必要であるならば、
  調査の嘱託をしていただくことを上申します。
   江戸川区部分のトイレが禁煙になったのは平成十年四月七日のことであ
  る。
十五 認否二二について
   被告の主張に関連することであり、後に譲る(第四 二)。原告のよう
  な症状がでることについては、専門家の証言を得る予定である。
十六 認否二三について
   公務員の措置要求については、その妨害につき刑事罰が定められている
  ので、まさしく法に反することである。また、「そんなことはない。」と
  答えているのであることより、了承したこと裏付けられる。
十七 認否二四について
    区議会でも指摘されたにも関わらず、被告はただ窓に換気扇を設置し
   たのみであり、まさしく消極的な対応しかしていない。
    また、WHOにより、たばこ規制条約が作成されつつある今日(甲第
   十一号証)、原告の主張する世界情勢は顕著な事実である。
十八 認否二六について
    区職員より証言をうる予定である。
十八 認否二七について
    交渉という用語が不適切ならば撤回する。要するに、原告の被告に対
   する主張は現在、措置要求の審理の中で行われているということである。
第三 被告の主張 一 事実の経緯について
一 事実の経緯1の「被告の」から「実施されてきた」までは不知。「すなわ
 ち」以降の「一階部分については、全面的に禁煙とし、」の部分は否認する。
 エレベーターホール、検査室は喫煙可であった。「二階部分については、ト
 イレと会議室については禁煙」の部分については否認する。トイレが禁煙と
 なったのは、平成十年四月七日以降のことである。会議室については、喫煙
 可であった。「その余の部分については分煙とし、」から「図ってきた。」
 については争う。換気扇等が設置されているだけでは、分煙といえない。そ
 の余の部分については不知である。
二 同2のうち、乙第二号証の空気清浄機の設置については不知。その他につ
 いては認める。
三 同3については認める。
四 同4について、「同年五月」から「要求をした。」までのうち、原告が北
 棟庁舎全体を禁煙にし、職員らが喫煙する場合には、北棟庁舎の屋外で喫煙
 するようにしてほしいと原告が主張したとの主張がある。確かに、原告はそ
 のようにすることが望ましいと主張したが、禁煙に固執したわけでなく、入
 口付近のコピー機のあるあたりのスペースを活用し、空間分煙を行うなどの
 妥協案をも主張している。乙第五号証の2、3にあるように、荒川区役所の
 ようにせめてしてほしいとの主張している。不正確である。
  「櫻田課長」から「述べた。」までは認める。
  「なお」から「指示した。」までのうち、「換気扇の前」が不正確である。
 換気扇は天井に設置されており、「換気扇の下」が正確である。なお、指示
 は、原告が陳情を提出してから後のことであり、指示した時期が誤りである。
  また、指示した後も、皆、自席で喫煙しており、課長は何も注意せず、事
 態を黙認していた。
五 同5についてであるが、陳情は禁煙・分煙化を求めているのであり、被告
 の記述は不正確である。
六 同6のうち「同年六月」から「話しあった。」までは認めるが、陳情の取
 り下げも迫られている。
  「その際、」から「と述べた。」については否認する。これは、課長が原
 告に対し、原告の意思を推察して述べた言葉である。原告は、日本国憲法上
 の権利を行使し、米国にならって地方議会による規制を望んだにすぎない。
 陳情をすることで、一般論となり、逆に、平穏に喫煙問題について検討が行
 われると考えたのである。区役所内で発言をすれば、原告が個人的非難をう
 けるおそれがあったのである。なお、被告にやましいところがなければ、職
 員が個人名で陳情を出そうとなんら、困る事はないはずである。しかも、原
 告は入区したばかりであり、陳情者が職員であるなどとは、議会事務局でも
 調査しなければわからないような事柄である。別件で、職員が議会に陳情し
 ている例もあるがこのような問題がおきたとは聞いていない。
七 同7について「原則として禁煙」の趣旨が不明であるので、留保して認め
 ることとする。
八 同8のうち「同年七月」から「取り下げた。」までは認める。
  「同日、委員会は」までから、「増設を要望した。」までについてである
 が、分煙化の徹底とあるが、この日に始めて、分煙化の方針が正式に決まっ
 たのである。
  「なお、」から、「二号証のとおりである。」のうち空気清浄機の設置に
 については不知。換気扇は乙第二号証の既設のもののみが設置されていた。
 「また、」から、「とおりである。」については、不知。なお、測定結果の
 評価については争う(第四 一 参照)。
九 同9について「同年」から「提出した。(乙第五号証の一乃至三)。」に
 ついては認める。
  「この後」から「述べた。」までは否認する。原告に対して、述べたのは
 千葉係長であった。また、原告の要望書は委員会の中で反対するものがいて、
 採択されなかったとの回答を受けている。
十 同10について「平成八年」から「異動したが、」までは認める。「その当
 時」から「とおりである。」のうち、他の職員の机の配置状況、換気扇の設
 置状況については認めるが、空気清浄機能が備わった空気調節装置の設置に
 ついては不知である。原告は保健所長より単なるエアーダクトであるとの説
 明を受けている。
  なお、乙第六号証の作成日については否認する。また、喫煙者の人数につ
 いて誤りがある。
十一 同11のうち「平成一〇年」から、「協議が整い、」までは不知、その余
 は認める。
十二 同12については認める。
第四 被告の主張 二 主張について
一 主張1について「前記一」から「であった。」までのうち、空気清浄機の
 設置については不知、その余は認める。
  「都市開発部は、」から「十分であったのである。」までのうち、床面積、
 空気清浄機の設置については不知、換気が十分であったことについては否認
 する。甲第一号証にあるとおり、換気扇や空気清浄機の設置によってはET
 Sを除去することはできない。少なくとも、空間を隔て、換気を別にするこ
 とが必要である。
  「したがって、」から「なかったのである。」については、右に述べた
 理由で否認する。
  「そして、」から「明らかである(乙第四号証の一乃至七)。」につい
 てであるが、被告は建築物の衛生的環境の確保に関する法律(以下「ビル管
 法」とする。)の基準を満たしているから、換気が十分であることを主張し
 ている。
  しかし、ビル管法は、昭和四五年という、受動喫煙の危険性について科学
 的知見の乏しかった時代に制定されたものであり、ETSの存在を念頭にお
 いて制定されたものではない。ビル管法の基準を満たしているからといって
 高度の危険性を有する物質が存在することもありうるのである。
  例えば、サリンが室内に少量存在したとしても、ビル管法の基準は満たす
 であろう。しかし、人体に対する危険性は論を待たない。
  この点、ETSの致死リスクは、サリンにも勝るとも劣らないものである。
 ただ、その効果が生じるのに、時間の差があるのみである。
  ビル管法の基準を満たしているから、ETSが存在しなかったというのは
 誤りである。
  かりに、粉塵濃度等を参考にするにしても、被告の主張には誤りがある。
  まず、被告の提出する乙第四号証であるが、この測定方法には大きな問題
 がある。
  被告の提出するデータは、五月のデータであるが、注意しなければならな
 いのは、この時期は、都市開発部の空調は入っておらず、窓は開いていたと
 いうことである。いうなれば、屋外と等しいような状況であったのである。
 このような時期の測定データの濃度が低いとしても驚くには値しない。
  加えて、乙第五号証によると測定時の喫煙者が零、又は一人となっている。
 再開発課の喫煙者は被告も認めるとおり六人である。この喫煙者はいわゆる
 チェインスモーカーであり、常時、タバコを吸っている状態であった。にも
 かかわらず、喫煙者が少ないのは、測定中はデータに影響が出ないよう喫煙
 を控えるためである。この点からも、データは不正確である。
  また、測定方法自体にも問題がある。ビル管法の測定方法では、居室の中
 央で平均値を測定すれば良いこととなっている。しかし、室内の気流の関係
 で粉塵等が一部に滞留することもあり得るのである。乙第五号証の測定は都
 市開発部の中央廊下でおこなわれているが、そこは棚に囲まれ、また、換気
 扇の位置関係により、中央廊下の圧力は正圧になるのである。ETSは直径
 が〇.〇一ミクロン程度の微粒子であり、気圧の影響を受け偏在しやすい。
 測定位置は粉塵濃度が室内でも低い位置にあたるのである。
  加えて、デジタル粉塵計は光の反射を利用するものであり、ETSのよう
 な微粒子を正確に捕らえられるかについては大きな疑義があることも指摘し
 ておく。
  以上のことより、再開発課の粉塵濃度が低いといっても、ETSの被害を
 原告が受けていないということにはならないのである。
  このことを配慮し、労働省制定の喫煙対策ガイドラインでは、職場の空気
 環境の測定方法につき、測定点を「一室につき五点以上設置すること。」と
 し、また「たばこの煙の滞留している箇所又は労働者等から特に測定を希望
 する箇所については、上記とは別に測定点を設定すること。」としている。
 更に測定回数については、「その通常の勤務時間中において、一定の時間の
 間隔ごとに、一日最低三回以上測定を行うこと。この場合、始業後、おおむ
 ね一時間、終業前おおむね一時間及びその中間の時点(勤務時間中)に実施
 することが望ましいこと。また、経時的な変化等を把握するためには、測定
 回数を多くすることが望ましいこと。」としている(甲第十二号証)。
  このように、ビル管法と喫煙対策ガイドラインとの測定方法は異なってお
 り、ビル管法の基準は受動喫煙被害の基準とはならない。
  また、喫煙者の側で粉塵濃度を測定すると、その濃度は直ちに、基準値の
 十倍に達し、粉塵計の針が振り切れてしまうのである(甲第十三号証)。喫
 煙者に囲まれていた、原告はビル管法の基準の何倍ものETSよりなる粉塵
 を吸わされていたのである。
  にもかかわらず、乙五号証には低い数値しかでていないのは、窓が開いて
 いたこともあるにせよ、測定方法に問題があることを示している。
  そして、窓が開いている状態でも、原告の所属する再開発課の粉塵量は他
 の職場に比して相対的に高い濃度を示しており、原告の職場が特に劣悪な状
 態であったという原告の主張を裏付けている。
二 主張2について「また、前記一」から「六号証のとおりである。」までの
 うち、空気清浄機能が備わった空気調節装置については、保健所長の説明と
 異なっており不知である。その余は認める。
  「そして、」から「設置されていたのである。」のうち、床面積、空気調
 節装置の設置については不知、その他については認める。
  「前記一」から「図られていたのである。」までのうち、一階部分が全面
 禁煙となっていたことについては否認する。エレベーターホールでは喫煙が
 可能であり、この場所が禁煙となったのは、平成一〇年四月であることは、
 被告自身が第四 被告の主張 一 事実の経緯10で認めている。また、検査
 室も喫煙可であった。
  また、トイレが禁煙となったのは、平成一〇年四月七日のことであり、会
 議室は会議中に紫煙が漂っていた。
  「禁煙と分煙の対策の徹底化が図られていた」ことは否認する。徹底化が
 図られていたならば、会議室やトイレや自席で喫煙する職員がいる筈がない。
  さらに、原告は保健所長に対して、喫煙場所を同じ庁舎内の東京都の部分
 と同じように区画してほしいと要求していたが、所長は、「牢屋みたいにな
 ってしまうのでできない。」と答えており、分煙化の徹底などとはいえない
 状況であった。
  また、このような訴訟が起きること自体が不自然である。
  「同所の」から「あったのである(乙第八号証の一)。」は認める。
  「そうであるので、」から「ありえなかったのである。」までは否認する。
 喫煙所からある程度距離があったとしても、喫煙所はなんら区画されておら
 ず、甲第一号証にあるとおりの換気のみによるETSの排出の不可能性を考
 えれば、原告の座席まで、煙が漂い、滞留していたことが証明される。
  また、換気の方法にもおおきな問題がある。喫煙場所は、衛生課庶務係の
 換気扇とエレベーターホール前の、エアーダクトであるが、エアーダクトの
 吸引力が換気扇に比して強く、それぞれが区画されていないため、換気扇付
 近の煙は外へ排出されず、エアーダクトの方へ引っ張られることになる。流
 体が壁面にそって流れる性質を有していることからすれば、換気扇付近の煙
 は原告の座席の方に向かって流れてくることとなる。
  以上より、原告の座席まで煙は漂い、滞留していたことがわかる。
三 同3(2) についてであるが、被告は原告が不自然な勤務していたことが不
 自然であるとしている。
  しかし、机の上に空気清浄機を置いて勤務すること自体、極めて不自然な
 ことであり、そのような不自然な事態になっていること、すなわち、原告が
 ETSに苦しんでいることに対し、管理者は何等の関心も払っていなかった
 のである。原告が主張しているように、管理職は公務員に憲法が適用されな
 いなどと主張するような不勉強ぶりである。原告の勤務状態を現認していな
 い、すなわち、原告についてなんらの関心も払わず、気が付かなかったとし
 ても何等不思議ではない。
  この点については、原告の勤務状況を目撃している区職員がいるので、後
 実、証言を得る予定である。
四 同3(3) について「そもそも」から「進行するものとがある(乙第九号及
 び第十号証)。」であるが、被告は若年層に多いものとして、加齢的変化に
 ともない変性した椎間板に強い外力が加わったものをあげている。しかし、
 被告提出の乙九号証においては、「線繊輪断裂に至る原因としては若年層で
 は繰り返す些細な外傷」が原因としており、被告提出の証拠には被告主張の
 記述はない。また、被告提出の医学書は「外来」「診療」の題名が示すよう
 に、診断学の本であり、疾患の原因を病理的に解明し、予防等に役立てるよ
 うなものではなく、被告の主張をなんら根拠づけるものではない。
  椎間板にかかる力は不良姿勢をとることで体重の二倍以上のものになるの
 は、医学的に知られている事実であり(甲第五号証)、国家公務員の多く受
 診している虎の門病院の整形外科部長の記述した医学書によれば、「脊柱の
 生理的湾曲からのずれは、二次的に椎間板、脊椎骨、椎間関節などの変形を
 おこして、個々の腰痛症状の原因となる。」としている(甲第六号証)。腰
 椎と頸椎の生理的構造が同じである事を考えるならば、頸部の不良姿勢は、
 椎間板変性の原因となることとなる。そもそも、保健所などでの腰痛の指導
 では不良姿勢をとらないように指導しているのであり、不良姿勢と椎間板等
 の変性との関係は一般的に承認されている。医学的には、不良姿勢による椎
 間板への大きな圧力が少しずつ椎間板に外傷を与え、椎間板の変性を引き起
 こすと説明される。このことは、乙第九号証の「繰り返す些細な外傷」の記
 述と一致するものである。
  労働省も昭和五〇年二月五日の「キーパンチャー等上肢作業にもとずく疾
 病の業務上外の認定基準について」の通達で、「上肢静的筋労作を主とする
 業務であること」すなわち、一定の姿勢を継続してとる作業を基準の一つと
 してあげている。そして、原告は不良姿勢を継続してとらざるをえなかった
 のである。
  また、被告は中年以降の加齢的変化を原因としてあげているが、原告は発
 症時、二十七歳であり、中年ではない。また、原告のMRI画像には、椎間
 板の縮小などの加齢的変化はみられない。したがって、この記述は原告の症
 例とは関係がないこととなる。
  原告は椎間板が右後方に突出している。原告が空気清浄機を机の向かって
 左側に置いて、そちらへ向かって、いたことにより、繊維輪の右後方部に加
 重がかかり、変形を来したと説明することができることになる。
  被告の椎間板ヘルニアの記述は不正確であるが、被告提出の証拠に照らせ
 ば、原告の症状の原因を証するものとなる。
  「頸部椎間板ヘルニア」から「これまた相当でない。」までであるが、た
 ばこの煙とヘルニアとの関係を理由を述べず否認している。
  しかし、甲第七号証、甲第八号証で明らかなように、喫煙と腰痛には明ら
 かな関係があるのである。そして、腰椎と頸椎の生理的構造が同じであるこ
 とをを考えるならば、喫煙を頸部痛との間の関係も同様である事となる。
 以上より、被告の主張は失当である。
第五 被告提出の書証について
   乙六号証の作成は本年度に入ってからの後であり、作成日は否認する。
  また、衛生課職員衛生の水口職員は喫煙者である。
第六 原告の主張
一 損害賠償請求の法律構成
  日本民法には条文上の定義はないが、従来から学説(通説)は、債権とは
 特定人が特定人に対して一定の行為を請求する権利であると、定義してきた。
 したがって、債権者は義務は負わないという考え方が従来支配的であった。
  しかし、人と人とが関係をもつ債権・債務の関係で、片方が権利のみを負
 うと言う事は、奇妙なことであり、現実的には一概にはそのように言い切れ
 ない。このことは、民法の解釈論にも影響を与えており、例えば、債務の履
 行に債権者の協力を要する場合に債権者がそれを拒んだ場合、いわゆる履行
 遅滞の解釈に極めて難しい論点を提供している。
  そもそも、債権の右解釈はドイツ民法二四一条を模倣して作られたもので
 ある。このような、規定は日本民法にはないのであるから、わが国において
 このような定義に拘泥する必要はないのである。
  また、ドイツ民法は権力の走狗であった裁判所に対する強い不信から裁判
 官の恣意をできうる限り排斥しようという意図のもと、債権等の細かな定義
 を明文化したのである。このような観念の比較的少ないわが国において、ド
 イツ民法の規定を解釈に輸入する必要も乏しいのである。このような社会学
 的見地を考えても、右解釈は取る必要はないといえる。
  以上より考えれば、契約上明確な合意がなくとも、契約の性質やそれと関
 連する諸法規から契約内容を達成するにふさわしい「債務」を債権者が負う
 と解することもできるのである。
  すなわち、雇用契約(労働契約)そくしていえば、資本主義的生産関係で
 は無産者が従属労働を行わざるをえないという被用者と雇用者の関係があり、
 それを規律する労働契約の性質、労働基準法、労働安全衛生法などの諸法規
 の存在から、雇用者には、被用者の生命及び健康等を危険から保護するよう
 に配慮すべき債務として、「安全配慮債務」が認められるのである。
  また、もしこのような解釈が、いまだにとれないとしても、現代の民法に
 は、権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実にこれをなすことを要する
 (いわゆる信義則)との規定があるのであるから、右債務の内容は契約の付
 随義務として、認められてしかるべきである(安全配慮義務)。この点、ド
 イツ民法においては、六一八条に安全配慮義務について規定がある。わが国
 が、ドイツ民法の解釈論を援用しているのならば、安全配慮義務も援用され
 てしかるべきである。
  以下、安全配慮債務または安全配慮義務を「安全配慮義務等」として、論
 を進める。
  そもそも、安全配慮義務等が認められる理由は単に契約の解釈ということ
 ではなく、いうまでもなく、現代人権理念、憲法に求められる。
  憲法において、すべての人権を包括する原則規範としての意味を持つ、
 「幸福追求権」を規定した日本国憲法一三条では、「生命、自由、幸福追求
 に対する国民の権利」としており、まず第一に人の生命が尊重されねばなら
 ないとしているのである。人権規定は、対公権力を主眼に規定されていると
 しても、憲法上の基本原理としてすべての法秩序に妥当する原則規範であり、
 私法上の一般条項を通じて解釈原則として私法秩序を支配するものである。
  そして、労働契約は労働者の労働力を対象としており、その商品性は、他
 の商品と異なり、生きた人間に宿っている力として、特殊なものである。す
 わわち、使用者の債権の行使の仕方によっては労働者の生命および健康を害
 することとなるのである。したがって、生命に対する幸福追求権は、私法上
 の解釈(民法一条等)を通じ、労働契約にあらわれる。すなわち、労働契約
 は、商品交換契約に基礎をおくといえども普通の商品交換契約とは特に異な
 る義務、これまで述べた「安全配慮義務等」を伴うものであるということで
 あり、この義務は憲法上の義務であるのである。
  そして、幸福追求権は、人格的に生存するためにに必要不可欠な権利もの
 と一般的に言われている。ETSが人の生命に対し、高度の危険を与えるこ
 とは今日、たばこ製造会社自身が認めるほど、明白となっているのであるか
 ら、生命に対する危険を排除する権利として「嫌煙権」が人格的に生存する
 ためにに必要不可欠であり、幸福追求権の内容として認められることとなる。
 それゆえ、ETSを除去するという使用者の義務は、単なる安全配慮義務と
 いうより、もっと具体的な「嫌煙権」という憲法上の権利に基礎をおくもの
 なのである。
  以上より、原告は、被告はETSを除去し、ETSのない作業環境を提供
 するという安全配慮義務等を負い、被告はをそれに違反し、原告の健康を害
 し、生命に危険をあたえたという債務不履行責任(民法四一五条)があると
 思料する。また、それは日本国憲法にも反する違法なものである。
二 被告の義務違反
  では、被告は具体的にいかなる義務に違反したのかを主張する。
  すでに、原告の提出した甲一号証によれば、⊥ETSは健康被害をもたら
 す⌒ETSは最悪の室内汚染物質であることが∂非喫煙者に対するETS暴
 露を防止するには、換気強化では不十分である。ことが示されている。
  このことより、かんがえれば、被告は原告の職場を完全に禁煙にするか、
 喫煙場所を区画して、換気を別にする必要があった。すでに、平成七年四月
 東京都庁などにおいて、喫煙場所の区画を行っており、それは、何等不可能
 なことではなかったのである。この点に、被告の義務違反がある。
  また、司法は政治とは無縁のものであり、憲法七六条三項によれば、「す
 べて裁判官は、その良心に従い独立してその職権を行い、この憲法及び法律
 のみに拘束される。」と規定されているのではあるが、人間の行うことであ
 り、なんらかの政治的配慮があるとしても、原告の職場を、乙五号証の二、
 三にあるように、荒川区役所のように、喫煙場所を執務室外に設けることは
 可能であったはずである。すでに、平成七年四月において、原告の所属する
 都市開発部のある北棟以外の本庁舎では、喫煙場所を執務室外にはまがりな
 みにも設けていたし、小岩図書館では、パーテーションで囲った喫煙所を設
 け換気を別にしていた。
  なぜ、それが、再開発課では行えなかったのであろうか。それは、再開発
 課、都市開発部に喫煙者が多いという、ただその一事で、怠慢が黙認されて
 いたのである。
  被告は、政治的配慮を考えたとしても、最低限の義務すら行っていなかっ
 たのである。
  すなわち、被告は喫煙場所を執務室外に設け、換気設備等を設けるという
 義務すら行っていなかったのである。
  そして、原告が主張をしても、議会で何度も質問がなされようとも、被告
 は態度を変えていない。原告は、被告の義務違反は平成七年四月の段階で既
 にあると考えるが、その他、原告の禁煙を求めた時期、議会での質問時、労
 働省のガイドラインの制定時、東京都分煙化ガイドライン制定時、人事院の
 公務職場における喫煙対策の指針制定時、どの時点においても義務違反を考
 える事ができる。
  また、この義務違反の事実を被告は、議会で指摘されているのであるから、
 当然、認識、認容していたといえる。
三 原告の勤務関係
  公務員の勤務関係の性質については、現行法上、明確な規定がない。公務
 員の任命行為を「同意ある行政行為」ととらえることも可能ではあるが、そ
 もそもこのような考え方は、明治の権威主義にもとずく行政行為観によるも
 のである。そこでは、公法・私法の二分論がとなえられていたが、この淵源
 となる、行政権が国民に対し、優越的立場に立つという見解は、民主主義の
 原理に立脚して権力の淵源は国民の意思に由来するとする日本国憲法のもと
 では、もはや維持することはできない。行政行為の公定力などの特有の概念
 も行政事件訴訟法の取消訴訟の排他的管轄として説明でき、現在において、
 右見解を維持する必要もない。実定法解釈上、公法、私法の二分論を維持す
 るのが有意味とする見解も存在しうるが、この見解によってよく説明できる
 とされる行政事件訴訟法の「公法上の当事者訴訟」も、現実にはほとんど利
 用されておらず、また、その手続きは、民事訴訟の手続きと実質的にはほと
 んど違わない。当事者訴訟の存在によって行政にかかわる法体系を公法と私
 法に二分するのはいささか大袈裟過ぎるといえよう。以上より、公法・私法
 の二分論は現在において維持する必要はなく、公務員の勤務関係は特殊な関
 係ではなく、通常の契約と解して差支えないとかんがえる。
  なお、安全配慮義務等に関しては一で述べたことより、公務員の勤務関係
 の性質に関わりなく認められるものであり、本訴訟で勤務関係の性質を論ず
 る必要は特にないと考えられる。
四 損害について
   原告は医療費として、五,八七〇円を請求し、その他、慰謝料として三
 〇万円を請求している。
  日本の国には、先進国とは思えないような、無形物に対する価値観の低さ
 があり、精神的苦痛にたいしては、笑えるようなお寒い現状がある。
  本訴は、米国では懲罰的賠償の対象たりうると考えられるが、日本の奇妙
 な法解釈のもとでは、低い賠償に甘んじざるをえない現状がある。
  しかし、判例においても、「大多数の人に一定の身体的被害が生じる危険
 性(単なる一般的抽象的危険性ではなく、高度の蓋然性の程度にまで高めら
 れた危険性)があることが医学論文等の証拠によって認められるならば、そ
 うした身体的被害の危険性のある状態で生活しなければならないという精神
 的苦痛をもって共通の精神的被害と認めることはできるであろう。」(那覇
 地裁沖縄支部判決平成六年二月二四日 なお、この判決は、福岡高等裁判所
 那覇支部判決 平成十年五月二二日でも支持されている。)とされており、
 原告はこの判例を援用することとする。
  さすれば、ETSによる致死レベルは環境基準の五千倍にのぼり、ETS
 の吸引を余儀なくされること(受動喫煙)による死亡率は二〇人に一人であ
 るのであり、受動喫煙下で勤務すること、それ自体を精神的被害と認めるこ
 とができる。
  ましてや、原告は受動喫煙と関係のある咽頭炎等の疾患に罹患し、平成七
 年五月、十二月に医師より診断を受けており、また、権威ある大学病院にお
 いても、咽頭痛などと受動喫煙の関係が示唆されている。さらに、ETSと
 関係のある椎間板ヘルニアにも原告は罹患しているうえ、ETSによる疼痛
 の悪化にも苦しめられているのである。
  この事実からすれば、原告が受動喫煙により、精神的被害を受けたのは明
 白である。
  そこで、その金額であるが、原告は、多くの損害賠償事件において指針の
 役割を果たしている、自賠責保険の基準を援用する。自賠責保険は、自動車
 事故が生じれば支払われる保険であり、いうなれば、自動車事故における最
 低保証であり、原告の精神的苦痛は、少なくとも右基準を下らないと考える
 ことは不合理な事ではない。
  自動車事故で、原告の症状と似通ったものとして、いわゆる、「むちうち
 症」がある。これは、通常、後遺症害第七、九、一〇、一二、一四級とされ
 ている。椎間板ヘルニアの症状は、むち打ち症と似ている側面があるので、
 その基準の援用も可能である。むち打ち症のなかの最低の基準は第一四級で、
 その慰謝料は三二万円とされている。ところで、「むちうち症」は器質疾患
 のないものの総称であり、原告の椎間板ヘルニアは、MRI画像により、器
 質疾患が確認されており、更に重度のものである。したがって、原告の精神
 的苦痛は三〇万円を下らないというのは十分理由のあることである。
  また、原告は被告より、身分上の不利益や、身体的疾患や人格を論難され
 ており、その苦痛を加えれば、まさに、三〇万どころではないといえる。
  そして、医療費であるが、原告は、生命・身体に対して被害を引き起こす
 高度の蓋然性を有するETSの吸引を余儀なくされていたのであり、そのよ
 うな状態で肉体的苦痛を覚えたのである。そして、咽頭炎などの診断を医師
 より受けている。このような状態で、健康不安を感じ、専門の医師の診断を
 受けることは、医学的に相当な行為と言え、被告に対する賠償を求め得るも
 のである。
五 ETSの危険性について
  被告は、換気が十分であったから、ETSの危険性はなかったと主張して
 いる。
  しかし、それは、対象物の性質を科学的に分析した結果ではなく、単に何
 の根拠もなく主張しているものにすぎない。それは、まさに、地下鉄の中に
 サリンを撒いても、換気が十分であるから、安全だと主張しているに等しい。
 このことは、甲第一号証において、換気能力の強化ではETSの危険性を排
 除できないとの論文を見ればあきらかである。
  この点において、原告と被告の主張が大きく食い違うところであり、ET
 Sが生命・身体被害を引き起こす蓋然性があるか否かが主要な争点であると
 原告は考える。今後、原告はこの点につき専門家の証言を求め、立証してい
 く予定である。


  検証の申立て

 本件損害賠償事件につき、原告は左記のとおり検証願いたく、申請致します。
 第一  検証の目的物

   原告が都市開発部再開発課で机上においていた空気清浄機のフィルター
  三枚

 第二 検証目的物の使用時期

    それぞれ平成七年十一月一日から十五日ころ
        平成七年十一月十五日から三十日ころ
        平成七年十二月一日から十五日ころ
     (原告は二週間に一度フィルターをとりかけていた。)

 第三 立証趣旨

    原告の職場がETSで充満していたことを立証する。なお、本フィル
   ターはメーカーより、交換の目安は六ケ月に一度とされている。


                                 以上


 

 以上は事前に出した準備書面です。準備書面には訴状と違って、決まった書き方はありません。わかりやすく書けばかまいません。準備とは口頭弁論で述べる予定のことをあらかじめ裁判所に伝えると言う意味です。本来は口頭弁論期日に準備書面に基づいて口頭で主張をするのですが、実際は準備書面陳述という扱いがされて、口頭弁論期日に口頭での主張が行われないのは、訴状と同じです。
 準備書面は裁判所と被告にそれぞれ送ります。訴状と違って、被告には原告から直接送ります。これを直送と呼んでいます。

 まず、第2回口頭弁論のやりとりを見てみましょう。

裁判官入廷。
裁判所事務官「起立。」
裁判官着席、その後関係者、傍聴人着席。
裁判所事務官「平成11年(ワ)13320号事件、河村さんと江戸川区の事件です。どうぞ。」
裁判長「えー、原告から第1準備書面、甲第1号証から第13号証が出されたということでよろしいですか。」
原告「はい。」
裁判長にこにこしながら、「原告から今回は詳細な準備書面が出されまして。えーっ、原告は安全配慮義務違反でいかれるわけですね。」
原告起立。 
原告「さようでございます。」
裁判長「原告第1準備書面陳述とします。では、被告さんは反論なさいますね。」
被告起立。
被告「はい。」
裁判長「期間は1月くらいでよろしいですか。」
被告「1月半ほと頂戴したいのですが。」
裁判長「そうすると、ちょっと先になってしまうな、えーっ、○月○日○時でよろしいでしょうか。」
原告、被告「結構でございます。」
裁判長「では、同じ法廷で。」
左陪席裁判官「ちょっとよろしいですか。」
裁判長「はい。」
左陪席裁判官「原告は、準備書面で、『精神的苦痛にたいしては、笑えるようなお寒い現状』とか書いていますが。」
原告「はい、実際・・・。」
左陪席裁判官「原告の請求額32万円は慰謝料ということでいいんですかね。」
原告「いいえ、全額慰謝料と考えているわけではありません。」
左陪席裁判官「いやね、ぶっちゃけて言うと、慰謝料請求とすると、法的になりたちうると思うわけで、原告はそう考えているのかと。」
原告「いえ、慰謝料というと精神の苦痛で、私は肉体の苦痛があったので、慰謝料というのとは別に、損害を請求しているわけでして、。」
左陪席裁判官「それは、慰謝料じゃないの。」
原告「原告はそういう考えに立っていませんのでして。」
左陪席裁判官怪訝な顔。
原告「次回、書面で原告の考えを提出したいと思います。」
左陪席裁判官うなずく
裁判長「では、閉廷。」

 今回は前回に比べて淡々と口頭弁論は終わりました。裁判長は前回、問題となっていた安全配慮義務違反という法律構成についても、特に問題にすることもなく、淡々と口頭弁論を進めました。
 ここで、わかることがあります。前回、なぜ裁判長が原告の法律構成についてうるさく言ったのかです。おそらく、裁判長は安全配慮義務違反という法律構成を良く知らなかったのだということです。法廷で突然、事前に書面で何も触れられていないことがぽんぽん飛び出して、気分を害したと言うことだと推察されます。今回は、事前に書面で安全配慮義務について提出され、裁判長も十分に準備してきたので特に問題なく進んだということでしょう。
 当たり前のことですが、裁判官が六法全書全部やらすべての法律理論を知っていると言うことはありえません。知らないこともたくさんあります。当事者としては裁判官はなんでも知っているだろうと思っていると、裁判官から怪訝な顔をされうことも良くあります。法廷にいると、若い裁判官はすぐにわかってくれても、裁判長がとんちんかんなことを言うことにも出くわします。これは、裁判官も忙しいので、法律やら理論やらを十分に研究する時間もないということに起因するのだろうと思います。若い裁判官は、新しいことを勉強して裁判所に入ったので新しいことを知っていても、裁判長ともなると昔の知識のままで、現在の事務をこなすのに精一杯で新しいことは知らないということもあるようです。だから、この裁判長のように、いきなり法廷で事前に聞いていないことを言われるのを嫌う裁判官もかなりいます。そもそも、日本の法廷は丁々発止のやりとりをする場所とはなっていません。アメリカとかの法廷とは大きく異なるのです。こういうことを知っておくことも必要です。
 ただ、裁判官は建前は何でも知っていることになっていますし、プライドもあります。法廷でなかなか知らないと言える裁判官もいませんし、仮に言ったら怒り出す当事者もいるかもしれませんので、安易には言えないかも知れません。そういうことを理解しながら裁判官とキャッチボールをすることが法廷では大事なことになります。この裁判長も、前回は安全配慮義務について十分にわかっていなかったので、書面で出せと怒鳴ったのだと考えられます。今回は安全配慮義務について十分に研究していたので、前回と違って、法廷で怒鳴ることもなく、淡々と原告に主張させ、弁論が進んだということになるのでしょう。
 後で、裁判所の訴訟記録を見ると裁判官が訴状に国家賠償と鉛筆で書いていました。裁判長は国家賠償の法律構成で第1回口頭弁論を準備していたようです。
 また、左陪席裁判官が、原告が『精神的苦痛にたいしては、笑えるようなお寒い現状』と書いていると述べています。意外に裁判官は細かいところまで書面を読んでいることがわかりました。
 この裁判官達は、おそらく、簡単にいうと、こつこつお勉強をするタイプなのだと思います。法廷で激しくやりとりをするのは嫌い、出された書面をこつこつと読み、検討するタイプなのでしょう。
 ということは、逆に言うと、きちんと書面で書いて出せば、きちんと目を通してくれるということになります。
 裁判官にはもちろん、あたりとはずれがありますが、基本的には出した書面をきちんと読んでくれる裁判官は、そうそうひどくはありません(中にはきちんと読まないで、適当にやっていると思われる裁判官もいます。)。この裁判官達はあまり口調は良くないと感じるけれども、仕事はきちんとしてくれそうな人達のようだということが推察されます。こういうような裁判官のくせを理解するのも実は法廷で大切なことです。なにしろ、こっちの言っていることが裁判官にうまく伝わらなければどうしようもないのですから。
 裁判官には、特に良く感じられるのですが、司法はこうあるべきという考えがあるようです。これまでも言いましたが、日本の法廷は法律上はアメリカの映画のような裁判の行われるような建前で定められていますが、実際は骨抜きになっています。裁判官はそれをあまりよしとしていないで、建前に近づけたいと思っているような感じもありますし、また、当事者に割って入って、真実を見つけだしたいという、いわゆる遠山の金さんのようなお奉行的な考えも感じます。本来、主張をしたり、証拠を出したりするのは、当事者の責任です。当事者のやり方の良し悪しで結果が左右されることになります。しかし、日本人はあまりそういうのを好まないようです。腕利きの弁護士が悪人を無罪にしてしまうというのが起こるのを日本人は仕方ないことだとは考えないような感じがします。例えば、政治家とかが無罪になったりすると、検察官が悪いと言う人よりも、裁判所が政治家に甘いと言う人もかなりのように思われます。国民には裁判所がいろいろ解明してくれるという過剰な期待があるようです。これは本来、検察官などの当事者の仕事です。ただ、裁判所も国民の裁判所に対する大きな期待に応えようとしているような感じも受けます。
 こういうことから、裁判官と当事者の間で訴訟のやり方をめぐってうまくいかないことはままあります。裁判所が当事者に割って入って自ら事件を解明しようとすれば、どうしても偏向しているように見えます。というか、人間には偏見があり、裁判官も人間ですから、実際、偏向してしまうのです。そういうところから、裁判官の態度が良くないと感じることもあるのかもしれません。
 ただ、少なくとも、裁判官の態度と公平さは必ずしもリンクはしていないと思われます。
 特に、この裁判長は、よく見ると、法廷の後ろにある高いところにある扉から、当事者、傍聴人を見下ろしながら入廷するということはせずに、原告の席の近くにある低い扉から入廷してから、ステップを登り、一段高い法廷に上がっていました。おそらく、これは、人を一段高いところから見下ろすというのではなく、一旦、普通の目線に立ってから法廷に上がるという裁判長の考えだったのだろうと思われます。ちなみにこのように入廷するのは知っている限りこの裁判長だけでした。また、書類の提出期限にはうるさく、被告が遅れて出したときなどは、これでは読んで来れないじゃないかとひどく怒っていたこともあります。逆に言うと、訴訟記録は丁寧に読んでいる感じでした。
 ただ、知っている中でこの裁判長が一番威圧的に感じました。
 見かけでものを判断しては誤ることもありそうです。そういえば、神話の正義の女神も目隠しをしていました。
 このように裁判官のくせを見抜いて、裁判所に主張を伝えるのも、裁判では重要です。裁判所も実は大変人間くさい場所なのです。
 
 



(以下続く)

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